まず『保険』とは、読者様を取り巻く様々なリスクから金銭的なサポートをしてくれる、人生の様々な場面において役に立つ、欠かせないツールです。今回は、美容室系支社に必要な損害保険・生命保険を徹底解説してまいります!
第1章:損害保険と生命保険の違いとは?
保険には『損害保険』と『生命保険』が存在しますので、まずはこの区別について確認しましょう。
まず『生命保険』についてですが「生命」の名が付く通り、命に対して掛ける保険です。美容室経営者様や、ご勤務されている方に「万が一」が発生した場合に保険金が支払われます。
対して『損害保険』は「命」以外の物に対しての商品です。店舗そのものや各種機材の損害に備える商品です。
保険業法上この2つの商品を明確に分けるために、生命保険は【第一分野】、損害保険は【第二分野】と区別されています。
そしてこの2つの分野ですが、1つの会社で両方の分野の保険商品を販売できないという業法上のルールがあります。
この問題に対応するため、各保険会社はそれぞれ子会社を作って、別の分野の保険商品を販売する形態としています(損害保険会社の子会社として生命保険会社、またはその逆)。
そしてもう一つ、【第三分野】の保険も存在します。これはケガや病気に対しての保障となります。第三分野については、損保会社・生保会社ともに販売が可能です。「損保会社が販売するがん保険」もCM等で目にする機会も多いのではないでしょうか。
また近年では生命&損害保険の乗合代理店が増加している事もあり、総合乗合代理店から全分野の保障(&補償)をもって、総合的な保険設計を依頼するケースが増加しているようです。
第2章:美容室経営者が入っておくべき損害保険 ①施設事故補償
美容室の運営について、施設内にて発生した人的な事故に対して保険をかけておく補償として、『一般賠償責任補償』が挙げられます。
美容室とは人(従業員)が人(お客様)にサービスを提供する事で成り立っていますが、どうしても人がやることに関しては、残念ながら事故を100%防ぐことはできません。日々の努力や業務改善で事故の確率を最小限に抑えつつ、それでも残るリスクに対して、保険を活用して備えるとよいでしょう。
美容室で起こりえる人的事故での具体な代表例は以下が考えられるでしょうか。
・ヘアカット中に、お客様の耳にハサミが当たって、傷をつけてしまった。
・カラーリング、パーマ薬剤が飛び散ってしまい、お客様の洋服を汚してしまった。
・カラーリング薬剤でお客様の肌がかぶれ、お客様が皮膚科に通院することとなった。
どれもありそうな事例なのではないでしょうか。基本的に保険は「もしも」に備える商品ですが、その「もしも」は、そんなに頻繁には起こりません。ただ保険を掛けることによって、万が一の「もしも」から守られるのであれば、それは働く従業員の方の安心にもなり、結果として会社の利益となって返ってくるという考え方が大切と思われます。
第3章:美容室経営者が入っておくべき損害保険 ②店舗管理事故補償
こちらは第1章でご説明させて頂いた、施設事故補償と同じく店舗内で発生した事故に対して保険金が支払われますが、発生原因が、店舗設備によるものとなります。店舗や施設自体の欠陥が原因で、お客様に被害を与えてしまうこともある、という事です。
起こりえる事故の代表例としては以下が考えられるでしょうか。
・店舗内の段差にお客様が足を引っかけて転倒して、ケガをしてしまった。
・店舗内の床が濡れたままになっていて、お客様が足を滑らせて転倒してケガをしてしまった。
・屋外(敷地内)の看板が倒れてお客様、通行人にケガをさせてしまった。または車を傷つけてしまった。
美容室はその性質上、毎日多くの、不特定のお客様が出入りします。施設管理について徹底をしていても、管理する側は賠償責任を負わなければならない事もあります。
また、施設賠償責任については特に保険料が安価なのが特徴です。店舗を利用するお客様と、そこで働く従業員の方の安心、店舗経営者としての責任に対して低いコストで備えることができますので、詳細な補償設計をご相談の上、加入するとよいでしょう。
第4章:美容室経営者が入っておくべき損害保険 ③生産物賠償補償
美容室においては、店舗での施術サービスとは別に、各種アメニティグッズ(シャンプー・トリートメント等)を取り扱い、お客様へご紹介・または販売するケースも多いと思います。
お客様がご帰宅後にご使用になった際に、お客様に被害を与える事となってしまい、賠償責任問題に発展してしまうケースもあります。
具体例としては、以下が考えられるでしょうか。
・ご購入いただいたシャンプーがお客様の頭皮に合わず、炎症を引き起こしてしまった。
・ご購入いただいた化粧品がお客様の肌に合わずに肌荒れを引き起こしてしまい、お客様が通院した。
美容室経営者は他店との差別化の為、施術以外でお客様からの満足度を高めることを目的として様々な独自商品を販売するケースが多く見受けられます。
商品の信頼性を得るために、開発段階で当然にアレルギーテストは行っているはずですが、実際に販売した全てのお客様にアレルギーが起きないとは言い切れません。
差別化のために販売した商品が、店舗の信頼を落とす結果となってしまってはなりません。
店舗独自の商品を販売する場合は、生産物賠償責任保険を用いて、「もしも」に対して万全に備えておきましょう。
第5章:美容室経営者が入っておくべき損害保険 ④一時預かり品補償
美容室では、お客様ご来店時にお客様の私物を一時的にお預かりする形となるかと思います。
お客様がお持ちになる私物というと一般的にはバッグを連想しますが、その他眼鏡や時計、帽子やアクセサリー等、季節によっては上着もお預かりする機会もあるかと思います。
また場合によっては高価な品物をお預かりする形もあるかもしれません。
それらのお預かりしたお客様の私物をお返しするまでに、汚損・破損させないとは限りませんし、盗難されないとも限りません。そういった万が一に、法律上での損害賠償責任を負担することで経営者が被る損害に対して保険金が支払われます。
美容室の運営については、日々十分な注意を払っていることでしょうし、預かり品の取り扱いについても十分に気を配っている事と思います。しかしながら気を配っていても、従業員は日々の業務の中で一時的に複数の仕事を同時にこなさなければならない事もあるかと思います。
*カラーリングの施術中に、別のお客様の会計をしなければならなくなった事は珍しくないと思われます。その際に洗い残しの付いた手でお預かり品をさわったことによりトラブルになった事例はまれに耳にします。
従業員が安心して働ける環境を、保険を活用して整えることは、美容室経営として合理的な考え方と言えるでしょう。
第6章:美容室経営者が入っておくべき損害保険 ⑤火災・盗難など損害補償
経営者様が所有する財産を補償する保険ですが、主に2つの契約形態があります。まず基本方式としては、「日本国内に所在する財産を包括的に」補償するものです。これは本社機能と店舗が複数存在し、その拠点間で輸送中の商品も補償範囲に含まれます。もうひとつは特定敷地内限定方式と呼ばれるものがあります。特定した敷地内に所在する財産への補償となります。
経営規模にもよりますが、一般的に美容室という形態からは特定敷地限定方式を選択することが妥当とされています。
保険の対象物は主に右記となります。建物・設備・什器・屋外設備装置(看板など)・商品(原材料なども含)。
支払い対象となる事故については、契約時に指定する必要があります。
主に考えられる原因は火災や落雷、爆発等ですが、他にも給排水事故からの漏水や、車両の衝突、水災、盗難など、
店舗所在地や周辺環境などを勘案して、合理的な補償プランを設計することが必要です。
第7章:美容室経営者が入っておくべき損害保険 ⑥休業損害補償
経営者様の占有する物件が何らかの損害を受けた事によって発生した休業損失について、包括的に補償できるのが休業補償です。
占有物件内での事故以外にも、隣接物件での事故や、電気・ガス・水道などの事故を原因とする休業にも補償されます。
支払われる損害保険金額は、休業による売上減少高に対して、契約時に設定された『補償割合(粗利益率以下)』を乗じた金額になります。
※1:補償割合=粗利益÷売上高
例として、(800万円)粗利益=売上(2,000万円) – 営業経費(1,200万円)⇒ 粗利益(40%)=粗利益(800万円) ÷ 売上高(2,000万円)、となります。
上記の一般的に知られている補償内容に加えて、営業継続のため代替店舗の借り入れ費用や復旧を急ぐための突貫工事割り増し費用、損害拡大防止のための追加費用、被害を被った設備への損害拡大防止費用なども基本補償に含まれていますが、美容室の経営者様にヒアリングした限りでは、実際に保険を使うケースはあまり聞かれませんでした。
むしろ特約として付加できる、商品仕入れ先の損害や災害などによる休業損失や、地震による休業に対しての補償特約に対しての必要性・危機感を持たれている方が多いようです。
大規模地震発生の際には店舗の倒壊のみならず、インフラの停止、必要物資の納入などで一定期間休業せざるを得ないことについては、過去の事例から経営者様の関心は高い印象です。
第8章:美容室経営者が入っておくべき生命保険 ①死亡保険
経営者の死亡時の保障としては、主に『定期保険』が活用されているケースが多く見受けられます。その字のごとく決められた期間の保障となり、契約期間後に「万が一」が有っても保険金の出ない、いわゆる掛け捨ての保障です。定期保険のメリットはなんと言っても「安い保険料で大きな保障を持てる事」です。例えば開業間もない時期や、資金繰りに余裕を持てるまでの時期などは、掛け捨ての定期保険を活用して、事業を守る保障設計を検討すると良いでしょう。
また、掛け捨ての保険は、契約者を法人として加入することで、保険料の全額を損金として計上することができます。
保障と同時に、生命保険は経営者自身の退職金の積み立てにも有効な活用手段となります。
長期平準定期保険や逓増定期保険など、貯蓄機能のある保険商品の解約返戻金を、自身の退職金として積み立てる事が出来ます。
貯蓄機能のある保険商品の保険料については、解約返戻金の返礼率に応じての損金算入となります。
各保険会社の商品ごとに、解約返戻率の最大割合や立ち上がるタイミングが違いますので、ご自身の勇退時期などを踏まえて、検討することが必要でしょう。
また、逓増定期保険については、保障額が増額するタイミングも商品によって様々です。ご自身の事業計画と照らし合わせて、商品選定や保障額を保険取り扱い担当者にご相談するとよいでしょう。
第9章:美容室経営者が入っておくべき生命保険 ②生存保険
経営者が検討するべき生命保険は死亡保障よりもむしろ生存時に給付金を受け取れる保証かもしれません。例えば一般の会社員であれば、働けなくなった時には4日目から傷病手当金を受給することができます(ボーナス抜きの月収の66%)。また、有給休暇も活用することも可能です。しかし経営者にはどちらもありません。病気等を患って働けない期間が発生した場合の保障は、自分自身で備えておく必要があります。
代表的なものとして『収入保障保険』の活用を検討しましょう。所定の給付状態となったあと満期まで月額給付金を受給できるタイプの保険です。保険商品によって給付条件も様々で、障害等級で判別するものや、精神疾患で給付対象となる物、また一度給付対象となればその後回復して復職しても、満期まで給付を受け続けられる商品も存在します。
また、一般的な医療保険やがん保険も、法人での加入が可能です。
年間保険料が30万円以下であれば全額損金算入が認められているため、節税効果もあります。
ただ法人で加入した場合、保険金が入金されるのはあくまでも法人という点は留意しておきましょう。
場合によって、法人契約の医療保険を将来的に個人で買い取る事も可能です。詳しくは保険取り扱い担当者によくご相談の上、商品や保障額を検討するとよいでしょう。
第10章:美容室経営者が入っておくべき生命保険 ③生死混合保険
生死の両方に備える保険として最も有効な保険として『養老保険』を検討するとよいでしょう。この「生死」には、経営者ご本人のみならず従業員も含まれており、従業員の福利厚生を目的として養老保険が活用できます。
この場合の従業員への福利厚生とは、生死双方に対しての金銭的なサポートとなります。まず、養老保険の仕組みの特徴として「死亡保険金と満期保険金は同額」となっています。万が一の場合には従業員の遺族が保険金を受け取り、生存したまま満期を迎えれば満期保険金を法人が受け取って、それを従業員の退職金として活用できます。どちらに転んでも、受け取る保険金は同額となります。つまり経営者は、養老保険を活用することによって、生死に関わらず従業員とその家族の生活を守ることができる、という事です。
また、法人による従業員の福利厚生を目的として養老保険に加入する場合は、保険料の半額を損金として算入することができるため、法人税節税の手段としても検討する価値があります。
変額養老保険を活用して、従業員の十分な退職金を積み立てている経営者様が増えてきております。
ただしこの場合福利厚生という目的のため、被保険者として従業員全員を対象にしなければならないことは留意しておくことが必要です。
現役保険代理店が美容室系支社に必要な損害保険・生命保険を徹底解説まとめ
生命保険と損害保険は、経営者様への経済面について強力なサポートとなることができます。
言い換えると、経営者様の希望や悩みを上手に活用することによって解決するための手段として、保険は「使える」という事です。
個人的には、経営とはハイリスクな請負業と思っています。自分の目標を叶えるために、また働いてくれる従業員の生活を守るために事業を継続する責任を背負った、なんとも大変な仕事と思います。
経営者様のリスクを回避し、会社の財務体質を強化し、円滑な事業継続のための味方としてご認識頂ければ、『保険』は非常に役に立つことでしょう。