多くのご婦人に美と安らぎをお届けする美容室の経営をお考えの皆様に必要な情報を、このコラムでお伝えしようと思います。特に今回は、借入・融資方法等についてです。
では、美容室経営者が知っておくべき借入・融資方法を解説していきます。
美容室経営者が知るべき借入・融資方法とは
美容室を開業するのには、お金かかりますよね。お店を買う場合はもちろん、借りる場合も資金が必要です。借りるのが一般的でしょうが、その場合は毎月の家賃のほかに数か月分の保証料が必要でしょう。
その他、快適な環境を演出するのに内装工事をしなければなりません。また、美容機械器具の購入等の設備資金も要りますよね。設備資金のほかにもシャンプーリンス等材料費、人件費、家賃、光熱費、広告費、諸謝金等の運転資金が必要となります。
これら必要資金をご自分で捻出できれば問題ないですが、普通は金融機関から借入、融資を受けます。設備資金には長期の融資資金が、運転資金には短期の融資資金が必要になります。
融資には公的融資と民間融資があります。公的融資とは、国や地方公共団体の関係機関が行う融資で、主なものは、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫があります。民間融資とは皆様ご存じのように、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合がありますよね。
一般的に公的機関による公的融資は、金利が比較的低く、保証人や担保の提供が不要の場合もある等のメリットがありますが、審査が厳しいとか実行まで時間がかかる等のデメリットがあると言われています。よく比較検討することが必要でしょう。
融資の形態は当座貸越、証書貸付、手形割引、手形貸付がありますが、開業の際などは証書貸付、すなわち金融機関と金銭消費貸借契約書を交わすことになると思われます。その内容は融資金額、金利、返済期間、据置期間等が含まれます。
以下の章で、開業に際に使える有利な融資をご紹介します。
第2章 美容室の開業に使える借入・融資①「新創業融資制度」
新規の開業や創業を促し、経済を活性化したいというのが国や地方公共団体の重要な政策の一つとなっています。
その政策を実現するために、いろいろな有利な融資や助成金、補助金が用意されています。この章ではそのうち日本政策金融公庫が行っている「新創業融資制度」の概要を記すことにしましょう。
これから美容室を始めようとする人や美容室の税務申告を2期分終えていない人が利用できます。その他、次のいずれかの要件に該当することが必要となります。
雇用の創出を伴う美容室を始める方
技術やサービス等に工夫を加え多様なニーズに対応する美容室を始める方
現在美容室に勤務している方が独立して美容業を始める方で、現在の企業に継続して6年以上お勤めの方又は同じ
美容業に通算して6年以上お勤めの方
産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けて美容室を始める方
四つの条件がありますがそのいずれにも該当しなくても理容業について適正な事業計画を策定しており、その事業計画を遂行する能力が十分あると公庫が認めた場合は1,000万円を限度としてOKとなります。また既に事業を始めている場合は、事業開始時に以上のいずれかに該当した方も対象となります。
もう1つ自己資金の要件があります。創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できることが必要になります。
資金の使いみちは新たに事業を始めるための設備資金、運転資金。融資限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)。担保・保証人は原則不要となっています。
利率は個別事情により異なりますので公庫支店に問い合わせてください。
返済期間については、設備資金は20年以内(うち据置期間は2年以内)運転資金は7年以内(据置期間は2年以内)
この制度は他の融資第3章や第4章に述べる公庫融資と併用されることが多いようです。
第3章 美容室の開業に使える借入・融資②「女性、若者/シニア起業家支援資金」
起業・創業を支援する制度のなかで、特に期待されている女性や若者、シニアに的を絞って支援する制度があります。ここでは日本政策金融公庫と東京都の制度をご紹介します。
■日本政策金融公庫の「女性、若者/シニア起業家支援資金」
この制度の対象は女性、35歳未満の男性または55歳以上の男性で、新たに事業(美容室)、を始める方、及び始めてからおおむね9年以内の方です。これには2種類あります。
国民生活事業と中小企業事業です。前者は個人や小規模法人を対象に数百万円から数千万円の小口資金融資で、後者は中小・中堅企業を対象に数千万円から数億円の長期事業資金の融資です。
ここでは前者の。国民生活事業について述べましょう。
融資金額は7,200万円以内(うち4,800万円以内が運転資金)、実際には無担保で300万円から700万円が多く、特別のノウハウがある場合等にはまれに1,000万円~1500万円程度の場合もあるそうです。
返済期間は設備資金が20年以内、運転資金は7年、据置期間はともに2年。金利は状況によりかわりますが、技術ノウハウ等新規性が認められる場合、政府からの「地方創生推進交付金」を活用した場合には優遇金利が適用されます。
担保・保証は原則求められませんが、一定の場合は必要な場合があるようです。
■東京都の「女性・若者・シニア創業サポート事業」
東京都が補助金を支給し、地域創業アドバイザーと都内の信用金庫、信用組合等が連携し信用保証協会の信用保証を条件として創業者に優遇金利で融資する制度です。
対象は若者は39歳以下であることが上記公庫と異なり、また都内で創業の計画のある者または創業5年未満のものという条件があります。
限度額は1,500万円以内(運転資金は750万円以内)、返済期間は10年以内、据置期間は3年以内となっています。金利は1%以内となっていますが別に保証料が必要です。
その他の特徴は融資前には事業計画作成のアドバイスを受けることができ、融資後は私もそのアドバイザーですが、5年間にわたり年間3回の助言をうけることができる制度となっております。
第4章 美容室の開業に使える借入・融資③「新規開業資金」
美容室の開業・創業の際に利用できる「新規開業資金」制度は広く利用されている制度です。実施主体は日本政策金融公庫で、公庫が実施する創業関連融資の一つです。
第二章、第三章の公庫融資との関係もご注目ください。
この制度にも、個人や小規模企業を対象とする「国民生活事業」と中堅企業を対象とする「中小企業事業」とがあります。ここでは前者「国民生活事業」について述べさせて頂きます。
利用できる人は新たに美容業(事業)を始める方や美容業を始めておおむね7年以内の方です。
その他次の要件のいずれかに該当すること、として第二章に掲げた①雇用の創出を伴う事業を始める方等が掲げられています。
資金の使いみちとしては新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金とされており、限度額は7,200万円(うち運転資金は4,800万円)です。
返済期間は設備資金は20年以内、運転資金は7年以内、いずれも据置期間は2年以内。
利率は条件によりいろいろ特別利率もありますので窓口でお尋ねください。
担保・保証人については相談に応じるということになっています。
以上のように開業創業融資にはいろいろありますので、条件の違い等よく比較検討することが必要となります。
第5章 美容室経営者が借入・融資を受ける際の注意点
みなさまが美容室を開業する際には、前にも述べましたが、美容室の内装工事をし、機械器具備品を購入するための設備資金、シャンプー購入や、水道光熱費等の運転資金が必要となります。
これらすべて自己資金でまかなえれば良いのですが一般的には足りない資金は金融機関から借りることにならざるを得ません。その際注意すべきことを考えてみましょう。
■その融資は必要かどうか
資金が必要になる場合はどんな場合か考えてみると一つは固定資産を購入する場合それは投資ですので、その収益への貢献度、何年で回収できるか考えて決める必要があるでしょう。
次に仕入れ代金のための借入ですが、過剰在庫にならないよう適量の購入が必要です。次に、支払いの時期が早く資金の回収の時期が遅い場合はその間のつなぎ融資が必要でしょう。
最もまずいのは資金繰りが苦しくなり、返済のために借入せざるを得なくなることです。そうならないよう日頃から資金繰り表をつくり慎重に資金の動きをみていかなければなりません。
■どの借入融資方法を選ぶか
借入・融資の方法はこれまで述べたようにあるいはそれ以外にもたくさんありますが、どの方法を選ぶかが大切です。
銀行から通常の方法で借りることもできますが、国や地方公共団体の制度融資は少し時間がかかるかもしれませんが、有利な条件で借入ができる場合が多いですからよく検討してもらいたいものです。
■融資の上限額を決めておく
最初借りるときは緊張して交渉しますが、うまくいくと後は気楽に借入れが増加する恐れがありますから、十分に慎重に融資を受けてください。
銀行も今低金利で経営が厳しいですから起業家の為でなく銀行のために融資を増やすようアプローチする場合もありますよ。そのため融資を受ける場合の上限額を考えておいた方がよいでしょう。
- 通常、月商の2~3か月分以内が運転資金の目安と言われています。
- 月づきの返済可能額を考える。(税引前当期純利益+減価償却費)÷12 で計算する。
返済は利益からおこなうべきもので、減価償却費は支出を伴わない経費なので返済に充てることができます。その合計を12で除すれば毎月の返済可能額が計算できます。
以上の他、次に述べる融資を受けるメリットやデメリットも考えることが大切です。
第6章 美容室経営者が借入・融資を受けるメリット
前にも述べましたが美容室を開業すれば、家賃保証料、美容設備費等お金がかかります。
ご自分の理想を追求すればするほど多額のお金が必要となりますね。
それらすべてお手持ちのお金でまかなえれば何も問題はありませんが、普通はそうはいきません。
特に開業して間もなくは客も少なく収入も少ないでしょうから生活費も残しておかなくてはなりません。
どうしてもお金を借りる必要がでてきます。そこでこれまで述べてきたような、さらにはそれ以外でもいいのですが、よく検討して借入・融資を受けることになります。
一般的には事業用の資金の多くは借入・融資に依存します。その資金をもとに事業の体制を整え美容室を開業します。そして適切な広報を行い、お客を集客し徐々に評判を得て、経営を軌道に乗せます。
そして利益が上がるようになり、その利益から返済が始まります。借入・融資の返済は、利益から捻出することをいつも頭に入れておいてください。開業当初は利益が上がらないでしょうから、借入の際据置期間が定められるのが一般的です。
美容室の経営が順調に進み、二店舗目を出したいということになると利益の蓄積もあるでしょうがまた借入・融資を検討することになるでしょう。そのような状況では金融機関も比較的好意的に相談にのってくれると思います。
事業の進展により利益を上げ融資を加えて、さらに投資をして一層の発展を図る、このように借入・融資は開業を助け、事業の成長を助けてくれる側面を持っています。
第7章 美容室経営者が借入・融資を受けるデメリット
第6章でも述べましたが、美容室を始めようとするとその規模等にもよりますが一定の資金が必要で、金融機関から借り入れるのが一般的でしょう。
その意味で借入・融資は必要不可欠で、重要な業務です。ただ、借入・融資は必要不可欠な業務ですが、気を付けなければならないこともあります。
一つはお金を借りたわけですから、必ず返済しなければならないものだということです。あたりまえだとお思いでしょうが、だんだん慣れてくるとその意識が薄くなる恐れがあります。
それと返済金は会計的に言うと企業の利益から払うべきものだということで、これは利子とは違うものです。
利子は利益から差し引かれる経費ですが、返済金は利益から差し引いて利益が減って税金が減少する経費ではありません。税金は減りません。経費税金を引いた利益の中から払わねばなりません。
このことを意識していないと資金繰りを間違える恐れがあります。利益が出なくても返済はしなければなりませんが、徐々に資金繰りが苦しくなり、それが続くと返済のための借入をせざるを得なくなり経営破綻につながりかねません。
二つ目のデメリットは返済することで資金繰りに悪影響がでて、新たな投資等に支障をきたすこともあるでしょう。しかしやむを得ないことですから、資金繰り表をよく検討して無理のない運営をするしかありませんよね。
経営の自由度を確保するためには返済も考えて借入資金は必要最小限にすべきでしょう。
その他、お金に対する意識が変化するおそれがあります。借入に慣れてしまってはいけません。
前にも述べたように返済にために安易に借入れを増やし、それがまた経営を縛り、火の車になるおそれもありますから借入・融資の負の側面も意識しておきましょう。
第8章 美容室経営者の借入・融資に事業計画書は必要か
事業計画書は美容室経営者が金融機関から借入・融資を受ける際求められるのが一般的です。また、補助金等を申請する際にも必要となるでしょう。
美容室を開業することを考えている場合、金融機関や補助金の担当機関ごとに様式が決まっており,それに基づいて作成していただくことになります。通常次のような内容の記載が求められると思います。
まず、開業しようとする事業主の創業への思いを書きます。顧客への姿勢、従業員への思い、経営健全性への方針、広く社会的課題に対する思い等がその内容となります。
それを明確にして長期的方針として、ぶれないよう時々振り返ることができます。また従業員等に説明し周知し方針を全員で共有することが大切と思います。
事業計画書にはその他借入資金の使途も記入しますが、その際必要な美容機械器具、内装の仕様、家賃・保証料、水道光熱費、材料費、大切な人件費等余すところなく抜き出し、実際の実施をイメージし慎重に検討することになります。あとであれがなかったというようなことがないようにしなければなりません。
事業計画書作成時の注意点ですが、具体的に細かく考えることが求められます。そしてその考え方、積み上げる数字に整合性がなければなりません。
同時に数字等を根拠のあるものにすることが大切です。そして説得力のある事業計画書にしましょう。そうすれば金融機関補助金担当機関の審査の合格に近づくことが期待されます。
第9章 美容室経営の借入・融資に返済計画は必要か
美容室の開業に使える借入・融資が成功したとしましょう。それで終わりではありません。借入には必ずその後の返済が伴います。適切にかつ円滑に返済するためには返済計画の作成が必要と思います。
前にも述べましたが、事業計画書には資金の使途を明確に記載します。漠然と借りるということでは金融機関の審査をパスしないはずです。事業計画書にははっきり書いても計画書を無視して漠然と使っていくと、自然と資金の状況を見失ってしまいます。
使途をはっきり決めて、計画的に使用することが大切です。そして契約通りの返済をしなければなりません。
その資金の使途ですが、具体的に、給与に何月何日にいくら支払う、今後○〇が生じるから〇日までにいくら必要だ、借入の返済にいくら必要、等考えておけば経営の健全化にも役に立ちます。
それでは、前にも述べましたが、どのくらい借りるのが適切かを考えてみましょう。
その考え方の1つは借入金月商倍率という考えです。(借入金÷毎月の売上の平均)を計算し、一般には売上の2~3倍までなら健全で6倍程度以上だと危険とする考えです。
簡易キャッシュフローの考え方。「税引前当期純利益+減価償却費」、減価償却費は支出を伴わない経費なので、それと当期の利益を足したものが企業にとり自由になるお金でその数倍(通常10倍以下)まで借り入れ可能とする考え方です。
自己資本比率の考え方。これは私独自の考え方かもしれませんが、自己資本比率とは利益と会社にあっては資本金とを足したものを貸借対照表上の総資産で割った値で、これが30%以上だとまあまあの企業と言われています。だから、逆に自己資本比率30%位までは借りれるとの考えもできると思います。
いずれにしても、借入の返済計画も含めて、資金繰り表を作成するのが良いと思います。
資金繰り表は月間損益計算書を作成し、それをもとにキャッシュの出入りを記入して作成します。少し面倒ですが作られるとよいと思います。
それから担保があればたくさん借りれますが、返済を考えると、利益と減価償却費の合計の中から返せる範囲にとどめるのが賢明だと思います。
第10章 美容室経営者が知るべき助成金・補助金の活用方法
美容室経営者にとって資金面で助かるのは今まで述べた借入・融資がありますが、もう一つ助成金、補助金があります。借入は当然返済義務がありますが、この補助金等は返済する必要がありません。
ありがたい制度です。今この原稿を書いているのは新型コロナの真っ最中で、その関連の補助金等がありコロナ対応の特例もありますが、これは一時的なものなので、ここでは毎年実施されている一般的な制度を紹介します。
しかしそれも変更される場合もありますので詳しくはそれぞれの所管官庁のホームページでご確認ください。
補助金ですが、経済産業省の所管で美容室に利用できる主なものを上げてみましょう。
①小規模事業者持続化補助金
集客のためのチラシの作成・配布、宣伝のための展示会への出店、顧客獲得のための高齢者向け美容器具や設備等の費用が幅広く対象になります。
補助額は50万円または100万円までで、経費総額の2/3まで交付されます。ただし、この補助金は先に支出をしないと補助されません。
②IT導入補助金
美容室のホームページ作成費用、予約ソフト、財務管理システム等 ITツール導入のための費用を最大1/2まで補助してくれる制度です。
30万円~450万円までの補助額。この制度は①と異なり、補助が決定してから発注すればよいので助かります。
③ものづくり補助金
これはブランド化戦略、新商品開発、生産プロセスの改善など活用できますが、美容室の場合は新しいメニューの開発、宣伝費、販促費に対し可能性があります。
補助額は100万円~1,000万円までで、中小企業1/2、小規模企業2/3 まで補助してくれます。
このほか地方公共団体の補助金もある場合もありますので調べてみるとよいでしょう。
◆助成金ですが、これは厚生労働省の所管で雇用に関することを支援する制度です。
- 雇用調整助成金――業績悪化の中、従業員を休業という形で雇用を続ける場合の助成
- 労働移動支援助成金――中途採用を拡大する場合の助成
- 特定求職者雇用開発助成金――母子家庭等就職が困難な人を雇用した場合の助成
- トライアル雇用助成金――離職していた美容師さんを雇用する場合の助成
- 人材開発支援助成金――研修等従業員の育成に取り組む際の助成金
- 産業保健関係助成金――従業員の健康のために実施した際の助成金
- 中小企業退職金共済組合に係る新規加入等掛金助成
その他も色々ありますのでホームページをご参照ください。