そもそも、給与とは何でしょうか。
給与とは、雇用契約の元、その労働の対価として事業主が従業員に支給するものです。つまり、雇用であることが大前提です。
美容師の給与とは
雇用とは、事業主と労働者が交わす契約を指します。その契約があるからこそ、事業主はその方を従業員として指揮命令ができることになります。従業員の方はその指揮命令に応える義務がある一方で、労働基準法などで労働者として保護されることになります。
雇用と似て非なる契約に「業務委託」「業務請負」があります。美容室の給与計算では、この2つが混同されるケースがあるので注意してください。
業務委託の場合、契約する方はあくまで事業主と対等な関係となります。つまり、事業主はその業務の履行・完結だけを契約で求めるものであり、指揮命令権は無いので、その仕事の仕方に詳細な指示をすることはできません。
なお、業務委託(業務請負)契約をしながら、実質は事業主があれこれ指揮命令することを「偽装請負」と言い、処罰の対象です。
雇用なのか業務委託なのか、契約書をきちんと結んでおくことが、後のトラブルを防ぐために大事なことです。このコラムでは、雇用契約を元にした給与計算についてであることを前提に記述をしていることをご承知ください。
美容師の給与計算の概要
給与計算の中身を見ていきましょう。
美容室の給与計算は、「基本給」「手当」「出来高」といった内容に分類されます。
まず、基本給とは当人の能力等に見合った金額のことで、通常月に一度、原則定額で支給されます。
手当は、基本給に付随します。店長手当や役職手当のように能力に応じて支給するものもあれば、家族手当や通勤手当のように、能力に関係無く支給するものもあります。手当の支給は義務ではありませんので、支給するかどうかは経営者の判断となります。
出来高は売上など、事前に合意した目標の達成度に応じて支給されるものです。毎月計算して支給するケースもあれば、賞与など別の方法で支給するケースもあります。
これに労働基準法上で定められた労働時間を超えると「残業代」が発生します。呼び名は各美容室で違いますが、支給されている種類としては概ねこれらのものに分類できるでしょう。
美容室の給与計算上、支給金額だけ決めても終わりません。毎月、決められた社会保険料や所得税、住民税を計算して差引支給額を求めます。その金額を従業員に振り込みまたは手渡しを行います。その際には給与明細を一緒に渡す必要があります。
毎月の美容室の給与計算としては以上ですが、年間で見ると、後で解説をする年末調整や算定基礎届作成など、給与計算の結果を用いて、様々な処理を行う必要があります。一口に美容室の給与計算といっても、その幅は広いのです。
美容室の給与計算における「税理士」の業務範囲
税理士は税務の代理、税務書類の作成、税務相談のエキスパートです。税理士は国家資格であり、その資格が無い人間が「税理士」「税理士法人」を名乗ることはできません。
また、税務関係の書類には、税理士でないと作成してはいけないものがあります。これを税理士の独占業務と言います。
給与計算では「所得税」の計算が必須であり、また住民税の控除も行うことになります。
また給与計算というとお金の計算なので、なんとなく税理士が扱っているというイメージがあるかもしれません。
税理士が給与計算を行う時の範囲として、毎月の給与計算はもちろん、そこから所得税納付まで依頼できるということがあります。
ほとんどの税理士が、年末調整を給与計算に付随して行っており、またその後に続く確定申告処理も行っています。確定申告については給与計算とは別のサービスとしている税理士が多いのですが、業務としては繋がっているのです。
特に年末調整時に税務署に提出する「法定調書合計表」は税理士が給与計算をはじめ美容室全体をバックアップしていないと作成できないものになります。
また、これは税理士にもよりますが、給与計算の結果から、人件費の多寡に関するアドバイスや、会計上の観点からの財務に関するアドバイスも受けられるかもしれません。
経営的視点を持つ税理士であるほど、給与計算結果から有益なアドバイスを得られる可能性は高くなります。
美容室の給与計算における「社労士」の業務範囲
社会保険労務士(以下、社労士)は労働関係法令や社会保障法令に基づく書類等の作成代行、労務管理、社会保険に関するエキスパートです。こちらも国家資格であり、その資格の無い人間が「社労士」「社労士法人」を名乗ることはできません。
税理士と同様に、社会保険関係の書類には、社労士でないと作成してはいけないものがあります。これを社労士の独占業務と言います。
給与計算上では健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労災保険料(以下これらをまとめて社会保険料)を計算する必要があります。
所得税は一定の計算式に従って算出されるのですが、社会保険料はそれぞれに金額を決定するまでの条件が多岐に亘るので、正しい計算をする難易度も、所得税と比べ高いと言えるでしょう。
社労士が行う業務では、従業員を雇用している美容室に義務付けられている「算定基礎届の提出」と「労働保険の年度更新」があります。
例年だとどちらも7月10日が締め切りとなります。給与計算の結果がどちらも必要な処理となり、給与計算を行う社労士が付随して行っていることが多いです。また賞与を支払った時に必要な「賞与支払届」の作成も社労士が行います。
また、給与計算の実務だけでなく、そもそもどうやって支給すれば適法なのかを相談できて、給与規程の作成まで行ってもらえる、というところもあります。
社労士が得意なのは労務管理になるので、残業時間及び残業代の取り扱いや、給与計算の結果から見える人事労務管理の観点から有益なアドバイスを受けられるかもしれません。
美容室の給与計算を税理士に依頼した場合の特徴
税理士が得意なのは税務処理です。また、税務署など、税務官公署に届出をするところは、税理士が代行できるというのが一つの特徴となります。
給与計算上で必要になる税金とは、「所得税」と「住民税」です。特に所得税の処理は確定申告を中心に様々な情報を元に書類を作成する必要があり、かつ金額も大きいものになるため、慎重に作成をする必要があります。
ここを専門家に任せられるというのは、忙しい美容室の事業主にとって大きいのではないでしょうか。
ちなみに住民税は、市区町村から送られてくる「税額決定通知書」の金額を給与から控除するだけで、実際に計算をするということはありません。やはりメインは所得税処理ということになります。
また、ご自身や従業員の昇降給をさせる時、所得税やその他税金への影響についてもアドバイスを受けられるでしょう。様々な税金からトータルで見て、コストパフォーマンスの高いご自身や従業員の給与はいくらなのか相談できるというのが、税理士に給与計算を依頼する一つの特徴になります。
逆に言えば、社労士の独占業務を税理士が行うことはできません。社会保険関係の書類については、ご自身で作成を行うか、別の社労士に依頼をする必要が出てきます。
美容室の給与計算を社労士に依頼した場合の特徴
社労士が得意なのは労務管理です。また、年金事務所やハローワークなどへ届出をするところは、社労士が代行できるというのが一つの特徴となります。
また、一定以上の賃金が変わったときに提出する月額変更届や、賞与支給時に提出する賞与支払届など、税務処理に比べると不規則に書類の作成義務が発生するのも社会保険処理の特徴の一つです。これらの時期をきちんと察知して、適切に対応できるのが社労士ということになります。
また、美容室の給与計算では、労働時間の計算方法も多岐に亘ります。変形労働時間制や特例措置対象事業場の適用など、その美容室の働き方や規模などから、最適な働き方を相談できるというのが大きな特徴となります。ブラック企業という言葉が定着し、従業員も自身の働き方に敏感になっています。美容室の働き方を適法にしておく、ということは今や事業主が避けられないリスクヘッジとなっていると言えるでしょう。
所得税に比べると、働き方改革の流れで、法令の変更が多いのも社会保険の特徴です。最新の情報を適切に給与に反映させることも重要です。この視点からも社労士はアドバイスができる、ということになります。
こちらも、税理士の独占業務を社労士が行うことはできません。税務関係の書類を誰が作成するか、という点で別途対策を立てる必要がある、ということです。
美容室の給与計算を「税理士」「社労士」に依頼した場合のメリット・デメリット
税理士に給与計算を依頼した場合、業務的な側面では年末調整から確定申告までワンストップで受けられるのがメリットです。一方で社労士に給与計算を依頼した場合は、算定基礎届をはじめ社保提出書類をワンストップで受けられることがメリットです。
デメリットはその逆で、それぞれが受けられない分野において、その業務をどのように行うのか、対策を取る必要がある、ということになります。
また、受けられるアドバイスも変わるはずです。どちらも経営的視点であることは変わらないのですが、それが「お金に関することなのか」「働き方に関することなのか」と受けられる内容が変わってくるということです。
それぞれのアドバイスを受けられることがメリットになるのですが、どのようなアドバイスをより重視するのか、というところは各経営者の方で変わってくるはずです。
このアドバイスというのは「こうしたら良い」というプラスアルファになるものと、「このようにしないとダメ(違法)」という原則的なものがあります。
美容室の給与計算においては、前者は税務に多く、後者は働き方に多いアドバイスと言えるでしょう。
ご自身が何を強みにしていて、どのような専門家を欲しているかという観点で、そのメリットの大きさを考えることになります。
美容室の給与計算を「税理士」「社労士」に依頼する場合のコストの違いは?
先に結論を言ってしまえば、税理士か社労士かによって大きく変わるところではありません。どちらの士業かというよりも、その事務所が行っているサービスの範囲が大事です。
給与計算と一口に言っても、その範囲は人によって変わります。給与計算結果の一覧を作ることがゴールと考えるところもあれば、先述した各種帳票の作成まで丸投げを想定することもあります。
相場感としては、顧問料とは別に、1人あたり1,000円~2,000円、人数によっては固定費を別途設定しているケースもあるでしょう。賞与計算は給与とは別に一回としているところが多いようです。
感覚的には、月の残業時間まで会社側で集計後、士業側が給与計算結果の提出から給与明細の作成まで行い、1人あたりに直して1,000円~2,000円程度になっていれば、妥当な価格と思います。
それ以外に顧問料がかかり、また確定申告や算定基礎届作成で別途費用がかかるということもあります。
コストだけで給与計算の依頼先を決めるのであれば、単純に一人当たりで考えるのではなく、そのサービスが行う給与計算の範囲や、上記のトータルコストを算出したうえで比較する必要がある、ということになります。
安いと思ったら、オプションだらけで結局高くついた、というのは給与計算の依頼でもあり得ることなのです。
美容室の給与計算を依頼するときの考え方まとめ
実は税理士にも社労士にも、試験に「給与計算の仕方」という科目はありません。それぞれの担当分野における知識を問うだけです。
つまり、どちらの士業にせよ、資格獲得とは別に、給与計算についてプロとして依頼を受けるために研鑽を積む必要があるのです。そのため、税理士、社労士でも給与計算が不得手な方もいらっしゃいます。
例えば、税理士でも相続をメインにされている方だと、給与計算は詳しくない、というのは珍しいことではありません。社労士でも助成金メインという方で同じ現象が起こることがあります。
給与計算は100点を取って当たり前、100点でなければその責任を問われる世界です。そのためには、税理士であろうと社労士であろうと、給与計算という業務に対して、真摯に対応する方であることが、依頼するにあたっての大前提になります。
また、給与計算の研鑽を積んだ方であれば、自身の資格では扱えないところについて、別の解決策やノウハウを持っているはずです。そのような方なら、これまで述べてきたデメリットも無いかもしれません。
理想を言えば、先にそれぞれ信頼できる税理士、社労士を確保したうえで、信頼度とは別により給与計算に精通している方に給与計算を依頼することです。これであれば、給与計算を安心してまかせながら、税務のことや労務のことのアドバイスを受けることは難しくありません。
給与計算の依頼ということに限定するのであれば、税理士か社労士かというより、より給与計算に力を入れているか、というところに焦点をあてて探してみてはいかがでしょうか。
給与計算は単なるルーチンの事務ではなく、美容室経営を滞りなく進めるための大事な毎月のイベントです。税理士であれ、社労士であれ、信頼できるパートナーを探せることを期待しています。