美容室経営者が知るべき補助金・助成金まとめ

美容室経営者が知るべき補助金・助成金まとめ

 

補助金、あるいは助成金という言葉を聞いたことはありますでしょうか。
簡単に言えば「主に国などの行政機関から支給される、返済の必要の無い、もらえるお金」です。
え、そんな美味しい話があるの、と思った方もいらっしゃるかもしれません。

 

美容室経営者が知るべき「補助金・助成金」とは

 

行政としては、事業主にお金を支給することにより、そのお金を基に事業を発展させ、国の経済発展に寄与し、同時に労働の質を上げることを期待しています。そのため、当然のことながら、実際に支給を受けるためには様々なハードルをクリアしなければいけないのです。

一般的な進め方としては、まず、その金額を受け取るための計画を立てるところから始めます。計画の届を提出し、行政機関から承認を受けます。事業主は計画承認後、実行に移し、その結果を再び行政機関に報告します。

この報告時に助成金・補助金の支給申請を一緒に行うことで、そのお金を受け取ることができるのです。(進め方については、各助成金・補助金によって違いますので、例外もあります。)

計画を作り始めてから実際に受給できるまでは、数ヶ月から数年かかります。費用を補填するタイプの補助金・助成金の場合、そのほとんどが、まず全額事業主が負担した後に、その補填額を申請して受け取るという流れになります。

つまり、今すぐお金が欲しいような場合には使えません。あくまで長期的な視点に立って、資金繰りも含めて計画的に進めることが必要になるとご認識ください。

 

美容室経営者が知るべき補助金とは

 

では、詳細に入っていきましょう。「補助金」とは、主に経済産業省や中小企業庁などが発表しているものになります。補助金の目的は事業の育成、発展、維持にあります。

つまり、補助金は「事業に良い」ことをすると受け取れるということになります。

補助金の大きな特徴としては、採択率があり、採択されないと補助金も支給されないということです。補助金ごとにその採択率は違います。また同じ補助金でも、その採択率は年度によっても変わることもあります。

採択率20%程度の厳しいものから90%近くが受け取れる補助金もあります。ただし、この採択率がどれくらいになるのか、というところは、発表されていないことが多いので、事前に採択の難易度を知るのは限界があるのも事実です。

補助金の場合、まず締め切りが設定され、その締め切り内に提出された計画から、行政機関が審査をして、補助金対象の事業を発表します。

計画時には、事業計画や売上の推移など経営に関するものを提出します。

ここで審査がある以上、この計画をどのように作るか、というところが、補助金申請では重要になります。サポートできる士業として、中小企業診断士や行政書士が補助金申請のアドバイスを行っていることが多いようです。

 

美容室の創業に使える補助金

 

では、具体的にどんな補助金があるのでしょうか。代表的なものを挙げていきます。東京都の場合、創業助成金という名称で、創業5年未満の中小企業者をサポートする補助金があります。(助成金という名称がついていますが、性格的に補助金に近いので、こちらでご紹介します。)

事業計画を策定のうえ、決められたコンサルティングやサポートプログラムを受講、修了する必要があります。そのうえで書類審査、面接審査を受け、交付決定を受けることになります。

助成されるのは交付決定日から賃借料、広告費、器具備品購入費など、認められた経費の2/3以内、上限300万円、下限100万円となります。最長2年に亘ってサポートされることになっています。

もっとも、令和2年の募集は終了をしており、令和3年の募集要項については、まだ発表がありません。助成金・補助金はその年度や募集のタイミングでその要項が変わることがよくありますので、今後の東京都からの発表にご注目ください。

上記は東京都の補助金ですが、これはあくまで一例です。各自治体が、地域活性化のため、様々な創業を応援しており、各地で名称様々な補助金が発表されています。自身が開業する地域のHPや役所で、その情報を集めていただきたいところです。

 

美容室の販路拡大で使える補助金「小規模事業者持続化補助金」

 

日本商工会議所が発表している小規模事業者持続化補助金は、その名の通り小規模事業者が事業を続けていくためにサポートを行うものです。従業員数20名以下の小規模な事業者が対象であることが大きな特徴で、かつ5名以下の事業者だと採択に有利になるようになっています。

金額は販路開拓にかかる費用の2/3、上限が50万円となります。年度によっては、100万円まで増額されるコースも用意されることがあります。販路開拓とは、例えばチラシ作成費、ポスティング費、店舗改装費など、美容院でも一般的に使われている費用が対象となります。

この補助金の採択率は年度ごとにばらつきがあり、平成28年度が約40%に対して、平成31年度は約90%が採択されています。補助金全体から見れば、対象が小規模事業者に絞られている分、申請が通りやすい補助金と言えるでしょう。

毎年、年数回に分けて締め切りが設けられます。それまでに事業計画等の提出を行い、採択を待つことになります。

令和2年は一般型と一緒に「コロナ特例型」という、コロナ時代のビジネスモデルへの変換(対面から非接触への転換など)を支援する補助金も行われました(現在は締め切られています)。こちらも日々、情報が変わりますので、ぜひ小まめに日本商工会議所の情報をチェックしていただきたいです。

 

美容室のITツール導入に使える補助金「IT導入補助金」

 

経済産業省から交付金を受け、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しているIT導入補助金は、自社の課題をITツールで解決することを目的とした補助金です。例えば、定期的なルーチンワーク、経理業務や顧客管理の自動化、グループウェアによる店舗内の情報共有などが挙げられるでしょう。

ソフトウェア費用や導入にかかる関連費用の1/2が補助されます。上限が最大で450万円と大きいのが魅力と言えるでしょう。

ただし、どんなITツールでも良いのではなく、選択できるITツールは決められており、毎年、HP上で発表されております。まずはこちらから選択をすることがそもそもの条件となります。

また、大事なこととして、交付決定(採択)より前に発注、契約、支払いを行った事業には適用されません。つまり、既に導入しているITツールを申請することはできません。同補助金を使うのであれば、導入前の申請が必須なので、そのスケジュールに注意してください。

こちらも令和2年度分の募集は終了しています。IT導入補助金はここ数年続いていますが、その要件が毎年変わっています。専門のHPがあり、また各地で説明会も行われていますので、ご興味があれば、まずは説明を受けることをお薦めいたします。

 

美容室経営者が知るべき助成金とは

 

続いて助成金についてご説明をします。主に厚生労働省から発表されているもので、労働者の労働環境や待遇の改善を支援するものです。補助金が「事業」に出るなら、助成金は「人」に良いことをすると支給されるお金と言えるでしょう。

ここで言う労働者とは、雇用契約が結ばれている被雇用者を指します。業務委託者は対象とはなりません。被雇用者がいるということは、労働保険に入っていることが大前提となります。また、週20時間以上の勤務をしている従業員は雇用保険に加入している必要があります。労働各法を遵守していることが前提なのです。

助成金は補助金と違い、採択率という概念がありません。基本的には求められている書類を揃えて申請をすれば支給されます。これだけ書くと、コンテスト形式の補助金と比較して簡単にお金がもらえるイメージになるかもしれません。

しかし、求められる書類とは、労働各法を守っていることを示すものになります。

労働基準法で事業所の備え付けが義務となっている就業規則(10名以上)、雇用契約書(労働条件通知書)、出勤簿、賃金台帳はほとんどの助成金で求められます。これらの書類の整合性が取れているか、というところに難易度の高さがあります。

つまり、各種法律を遵守している店舗なら難易度は高くないのですが、それを怠っていると、助成金申請も難しくなる、ということです。

なお、助成金は基本的に通年受け付けているケースがほとんどです。ただし、毎年4月を基準にその要件が大きく変わることがありますので、年度代わりの助成金の発表には注目をしていただきたいところです。

 

美容室の雇用に使える助成金①トライアル雇用助成金

 

では、助成金のうち代表的なものをいくつか見ていきましょう。トライアル雇用助成金は、キャリア不足や年齢、障害、などを理由に就職がそれ以外の方より困難な方を「お試し」で雇用する時に支給される助成金です。シングルマザーやシングルファザーも対象となります。

助成費用は月4万~5万円×最大3ヶ月となります。支給はトライアル雇用後、常用雇用(無期契約)をした後に申請することになります。つまり、最終的に無期雇用にすることが前提となります。他の助成金と比べると、やや金額が少ないのですが、それでも採用コストを抑えられるというメリットがあります。

もちろん、キャリア不足を前提にしているので、採用後の教育には時間がかかるかもしれません。しかし、手に職をつけることで、キャリア不足から脱却したい、という方は一定数いらっしゃいます。助成金を受けながら、意欲を持つ方を採用することができるかもしれません。

同助成金は、ハローワーク等の「トライアル雇用求人」を通した紹介であることが前提になります。知人等で直接雇用した場合には適用されません。そのため、この助成金の利用を検討されるのであれば、まず、ハローワークでトライアル雇用求人を探してみてください。

 

美容室の雇用に使える助成金②キャリアアップ助成金

 

正確には雇用に使えるというより、雇用した有期雇用契約社員に良いことをすることで得られるのがキャリアアップ助成金です。しかし、雇用の段階からキャリアアップ助成金を使うことを想定して採用することで、助成金支給も無理なく進めることができます。

キャリアアップ助成金と一口に言っても、その中には様々な種類のコースがあります。この中で一番使われているのが「正社員化コース」です。このコースでは、有期雇用として契約した社員を、6ヶ月後以降に正社員化することで1人あたり57万円の支給を受けることができます。

正社員化にあたっては、雇用契約書や出勤簿の用意、また「契約社員」「正社員」の定義付けがされた就業規則などが必要です。つまり、会社で備え付けることが必要な書類が一通り要求されます。逆に言えば必要なものを備え付ける動機付けとして、この助成金を使ってみるのも良いかもしれません。

また、有期雇用契約社員に健康診断を受けさせる制度を作り、実際に受けさせる「健康診断制度コース」や、正規社員と有期雇用契約社員を同じ賃金制度にのせることで有期雇用契約社員の待遇をアップさせる「賃金規程等共通化コース」「諸手当制度共通化コース」などがあります。

 

美容室の雇用に使える助成金③人材開発支援助成金

 

人材開発支援助成金は、主に人材に対してかける教育訓練にかかる費用を助成するものです。

こちらも様々なコースがありますが、代表的なものに「特定訓練コース」「一般訓練コース」があります。

どちらも所定労働時間内にOff-JT(またはOff-JTとOJTの組み合わせ)を行う必要があります。
「特定」とは生産性の向上、熟練技能者の技能承継、海外展開など、特定の目的をもった訓練を行うものです。「一般」は特定以外の訓練を指します。

助成費用は、助成にかかる時間に支払われる時給に対して支給される賃金助成と、訓練にかかる経費助成に分かれます。その特定・一般の区分けやその内容によって、その助成額は変わってきますが、賃金助成が380円~960円/時、経費助成が30~60%程度です。

実際に訓練を行ったかどうかの証左が求められますので、訓練に対して計画を立て、実行し、その記録を随時残しておく必要があります。そのため、初回のハードルが高い反面、一度計画が遂行されれば、その後はその運用を繰り返すことで得られる助成金とも言えるでしょう。

その他、教育訓練を行うために休暇を取れる制度を作り、実際に休暇を取った時に支給される教育訓練休暇付与コースや障害者を訓練する障害者職業能力開発コースもあります。

  • 村田淳(Atsushi Murata)
    村田淳(Atsushi Murata)

    えん社会保険労務士法人代表。 社会保険労務であると同時に、100時間の傾聴訓練を積んだ産業カウンセラーでもある。 実務面と心理学の両面で中小企業や店舗をサポートしている。スーツや靴をオーダーメイドで作る喜びに最近目覚めてしまった。

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