従業員が休業うる美容サロンオーナーが知るべき「雇用調整助成金」とは?

従業員が休業うる美容サロンオーナーが知るべき「雇用調整助成金」とは?

 

雇用調整助成金とは、企業がやむを得ない事情により、急激に業績が悪化した場合に、会社都合解雇にするのではなく、後述する休業をさせて休業手当を支給することによって申請できる助成金のことです。

 

従業員が休業する美容サロンオーナーが知るべき「雇用調整助成金」とは

 

雇用調整助成金では休業ではなく、出勤させて教育訓練を行うことで金額は加算されます。目的は雇用の維持です。

元々は、景気悪化や競合製品の出現といったところが想定されている助成金で、製造業が利用するメインの業種でした。そのため、1日ごとに休業の実態を確認するシフト表や、休業を行うことを労働者側が認める同意書の提出など、書類が煩雑な助成金でもありました。

ところが、2020年より起こっているコロナ禍により、ほぼすべての業種で急速な業績悪化に見舞われました。そのため、雇用調整助成金の条件を緩和し、書類を相当数簡略化しました。

当初は使いにくいと言われた助成金ですが、今では雇用を守る生命線となっています。

これを記載している2021年2月現在では、雇用調整助成金の緩和措置が4月まで続くことが決まっています。

その後は緊急事態宣言が明けた月の翌月末を期限として、徐々に条件や金額が厳しくなる見込みです。とは言え、このコロナ禍で政策が次々に変わっている実情もありますので、今後の雇用調整助成金に関するニュースには、ぜひ注目をしていただきたいです。

 

雇用調整助成金で必要な休業手当とは

 

雇用調整助成金の対象者となるうえで、大前提となるのが社員を休業させて、休業手当を支給していることです。まず「休業」と「休業手当」について、理解しておきたいところです。

休業とは、本来労働の義務がある日に、その義務を会社命令で免除する日になります。なお、一日のうち短い時間を勤務して、残りの時間の労働義務を免除することを短時間休業と言い、こちらも雇用調整助成金の対象となります。

つまり、当初から労働義務の無い休日や従業員側の都合で休む有給休暇や傷病休暇は休業にあたりません。

同助成金を受けるには、まずこの休業日(時間)を確定させる必要があります。美容サロンの場合はシフトで動いていることも多いでしょう。その場合は仮でも良いのでいったんシフト表を作り、そこから休業日、休業時間を指定することになります。

同助成金では、この休業日や休業時間分の賃金を控除するのではなく、休業手当を給与として支給する必要があります。

労働基準法上、会社都合で休業をさせる場合、事業主は平均賃金の6割以上の休業手当を支給する義務があります。なお、平均賃金1日分とは「過去3ヶ月の賃金÷暦日数」が原則の計算方法です。

つまり、感覚的な過去3ヶ月の賃金の平均の6割よりも低い数字になります。

事業主はこの休業手当を、休業した日数や時間分支給します。法律的には上記の通り6割以上となっていますが、同助成金は支給した休業手当がほぼ全額戻りますので、通常出勤したのと同様に支給しても構いません。

実際、私の経験上でも、通常通り出勤したとみなして給与を支給しているところが一般的です。

 

「雇用調整助成金」でどのように従業員の休業対策ができるのか

 

コロナ禍で売上が下がった時、まず考えるのが人件費の圧縮です。しかし、解雇しないためには、雇用調整助成金は必須ということになります。

おそらく店舗には、月給で働く正規スタッフと、時給などでたまに来る時給(日給)の非正規スタッフ、そしていわゆるフリーの業務委託スタッフなどが混在しているのではないでしょうか。

この中で、この雇用調整助成金が使えるのは労働契約となっている正規スタッフ及び非正規スタッフです。社会保険や雇用保険の加入有無は問いません。

正確には、雇用保険非対象者は緊急雇用安定助成金という別名の助成金を申請することになりますが、ほぼ申請方法が同じなので、このコラムでは雇用調整助成金と名前を統一して解説します。

業務委託者はこの助成金の対象外です。業務委託であるということは、相手は一人の事業主と言えますので、その方自身で国や市区町村の補助金や給付金を申請していただくことになります。

コロナ禍で美容サロンの稼働が減った場合、まずシフト減やお店の休業を決定してください。予約のみ受付、といった方法も取れるでしょう。

そのうえで、業務委託者は自身の補助金給付金の申請を促し、正規・非正規スタッフは本来労働する時間を休業にして、休業手当を支給してください。

 

どのような美容サロンが「雇用調整助成金」を受けられるのか

 

雇用調整助成金を受ける要件としては、店舗の売上が休業前と比べて5%以上ダウンしていることです。具体的には休業をする直前1ヶ月と、その月の1年前の売上を比べます。

ただし、その比較で5%売上が無くても、売上が落ちた後の月を休業前々月や当月にすることも可能ですし、比較対象月を2年前同月や過去1年の任意の月にすることも可能です。

つまり、新規店舗で1年前の売上が無い場合も使えます。比較的柔軟にどこかの月の比較で5%の減少が認められれば良いことになります。

売上は売上勘定元帳や試算表、損益計算書などで提示します。手書きの売上一覧でも認められますので、売上を管理している資料をご用意ください。

同助成金は労働保険への加入が必須です。雇用調整助成金は労働者に休業手当を支給していることが条件なので、労働者がいるのに労働保険に入っていない、ということはあり得ないからです。

また週20時間以上勤務の労働者は雇用保険に入っている必要もあります。

なお、労働保険、雇用保険は遡りで加入することも可能です。決して褒められた話ではありませんが、もしも労働保険への加入漏れがわかった場合は、速やかに加入の手続きを行ってください。

これまで述べてきたように、上記に加えて休業手当を支給していることが申請の要件となります。教育訓練を行った場合は、休業手当ではなく、通常の給与の支給となります。

原則、支給した休業手当の全額が申請額(2021年2月時点で上限1日あたり15,000円。会社規模や、過去の解雇履歴で、支給率が変わります)となります。

教育訓練を実施した場合は、教育訓練を受けた労働者一人につき日額最大2,400円が加算されます。

 

従業員が休業する美容サロンオーナーが知るべき「雇用調整助成金」の申請方法

 

雇用調整助成金の申請は郵送でもオンラインでも可能です。オンラインの場合でも作成する書類は同じです。

コロナ禍の雇用調整助成金では、一般的に使う「新特」とタイトルがついたものと、20名以下で初めて助成金を申請するような方向けにさらに簡素化された「特小」と呼ばれる申請書と2つ用意されています。教育訓練を行った場合に使えるのは前者のみです。

実はこの2つは計算方法が違います。「新特」は昨年の労働保険料年度更新時に申告した金額(または所得税徴収高計算書)をベースに計算されるのに対し、特小は実際に支出した休業手当をベースに計算されます。

理屈としてはどちらもほぼ同じになるはずなのですが、店舗によっては大きく違ってくる可能性もあります。ざっくり言えば、一人当たりの給与で労働保険料の対象年度に多く払っていれば前者が有利、少ないようなら後者が有利になります。

なお、雇用保険非対象者については、計算方法は変わらず、実際に支給した休業手当を記載します。

申請書類には、その申請期間の出勤簿、賃金台帳(または給与明細)、役員名簿(特小で役員がいない、または代表者一人の場合は不要)を添付します。初回申請時のみ、売上が下がった証明と振込用の通帳のコピーが必要です。

新特の場合のみ、初回時に労働者名簿か登記簿謄本をつけます。中小企業にあたることを証明するためです。また、新特では「休業協定書」という、労働者と事業主が休業をすることに同意した書面を初回時に提出します。

申請は給与計算期間毎に行います。つまり2ヶ月分申請するのであれば2セットの申請書類が必要となります。また、雇用保険の対象者と非対象者が混在している場合、別々に申請書を作成することになりますので、作成書類数も倍になります。

締め切りは原則、給与計算期間の末日から数えて2ヶ月後です。末締めの会社の場合、2ヶ月後の末日までに申請を行ってください。

 

従業員が休業する美容サロンオーナーが知るべき「雇用調整助成金:様式特小第2号 休業実績一覧表」の書き方

 

恐らく、多くの美容サロンが20名未満の店舗だと思います。また、このタイトルのコラムを読んでいるということは、助成金の申請にそれほど馴染みが無い方が多いのではないかと推測します。

その場合は「特小」と呼ばれる簡易な方法を使うことをお薦めします。なお、説明には20名以下の会社は特小で、と書かれていますが20名以上で特小を使うことも、20名以下で新特を使うことも構いません。

なお、計算を自動で行ってくれるEXCELシートが厚生労働省から提供されています。新特を使われる場合はフォーマットの書き方が変わりますので、別途お問合せください。

最初に作る書類は休業実績一覧表です。休業している方のお名前、(雇保対象者のみ)雇用保険被保険者番号、そして休業をしている日数、時間、支給した休業手当を記載します。

休業手当については、通常出勤した通りに支給していて、給与明細上で基本給と分かれていない、という事業所も多いです。その場合は日割または時間で割って算出します。

例えば支給総額(手取りではありません)240,000円の方で、その月の労働日が20日の場合、240,000÷20日=12,000円が1日の休業単価になります。

1日8時間の労働時間であれば、1時間あたりの休業手当は1,500円ということになります。

一番下には、事業主と労働者代表を記載する欄があります。労働者代表は管理監督者ではなく、労働者間で民主的な方法で選ばれた方です。事業主からの指定はできません。

また、それを確認するためのチェックボックスがありますので、そちらにチェックを入れてください。

 

従業員が休業する美容サロンオーナーが知るべき「雇用調整助成金:様式第1号 雇用調整助成金支給申請書」の書き方

 

続いて、支給申請書に移ります。ここは、会社の住所、名称、電話番号、事業主名、雇用保険事業所番号(なければ労働保険番号)、担当者名などを記載します。銀行口座のits情報もこちらで記入をしてください。

その下に、雇用調整助成金の要件に合うかどうかのチェックを入れます。一つは売上が下がったことの確認です。前述の通り、売上が過去のコロナ前に比べて5%以上下がっていることが要件になりますので、ここは「はい」になるはずです。

次に休業の規模です。雇用調整助成金では、休業日延べ日数が所定労働延べ日数の1/40以上の休業である必要があります。つまり、あまりにも小さい休業状況では対象外になるということです。

質問の「従業員2人以上あたり1日」とは、これをわかりやすく示したものになります。雇用調整助成金を得る前提であれば、こちらも「はい」になると思います。

もう一つ、解雇状況及び雇用維持状況を聞く欄があります。裏面に記載されている期間に、会社都合解雇や退職勧奨をしていれば「いいえ」です。また、同様に裏面に記載されている計算方法を用いて80%以上在籍しているか、つまり自己都合も含め退職者が多く出ていないかを聞いています。

こちらも計算をして、80%未満になれば「いいえ」になります。どちらもクリアしていれば「はい」になります。仮に「いいえ」になった場合、支給率が100%から80%に減額になります。

EXCELシートを使っている方であれば、そこで完了です。自動的に申請額を計算してくれるからです。雇用調整助成金は1日あたり15,000円という上限がありますので、給与が高い方が多い場合、上限に引っかかって申請額が休業手当の満額にならないことがあります。

 

従業員が休業する美容サロンオーナーが知るべき「雇用調整助成金:様式第3号 確認申立書」の書き方

 

3枚目は確認申立書です。質問が記載されていますので、「はい」か「いいえ」でお答えください。質問を読んでいただけるとわかるのですが。暴力団とつながっていないか、不正受給をしたことがないか、記載事項が正しいかなどを確認する質問です。

基本的に答えは「はい」にしかならないようになっています。

なお、コロナ禍の雇用調整助成金では、過去に不正受給を行った会社や通常の助成金では対象外となる風俗業も対象となります。それだけ対象が広いとご認識ください。

下の方に法人番号を記載する欄があるので、法人の場合は入れてください。個人事業主は不要です。

事業主の生年月日を記載する欄もあります。こちらは個人事業主または法人でも1人しか役員がいない場合は記入します。法人で役員が複数いる場合は、別途生年月日の記載のある「役員名簿」を提出しますので、この用紙の生年月日の記入は不要です。

書式としては、これで完了です。3つの書式に合わせ、前述の通り、初回のみ売上が下がったことの証明、また毎回休業したことを証明する出勤簿やタイムカードのコピー、及び賃金台帳または給与明細で休業手当を支給した証明を添付します。

賃金台帳または給与明細に休業手当の金額が明記されていない場合、手書きで構いませんので、日割または時間で割った計算式と申請する休業手当の金額を記載しておくことをお勧めします。

 

従業員が休業する美容サロンオーナーが知るべき「雇用調整助成金」を不正受給すると

 

雇用調整助成金の不正受給では、「出勤簿を偽造する」「賃金台帳を偽造する」ようなことが考えられます。

実はその昔、リーマンショックの頃、この助成金に近い形で苦境に陥る会社に助成金の緩和を行ったことがありました。しかし、その後約3年間で570社が不正受給で摘発され、不正受給の総額は100億円超に上ることがわかりました。

既に持続化給付金の不正受給がニュースになっていますが、雇用調整助成金もこの後に不正受給の摘発が入るはずです。不正受給の調査は、審査担当者が怪しい書類を見つけるケースもあれば、匿名従業員からの密告といった形で始まることもあります。

「小さい事業所だから大丈夫」と思われるかもしれませんが、前回の摘発でも50%近くが「申請額1,000万円未満」なので、小規模事業所であったというのもまた事実です。

不正受給が摘発されると、金額の返金はもちろん、延滞金や付加金を追加で請求される可能性が高いです。事業所名は公表されますので、社会的な信用も相当に落とします。

他の助成金の支給申請もできなくなります。不正受給が明るみになった時のダメージは小さくありません。

何よりも「いつ労働局から連絡があるか」と心の片隅でも不安を感じながらする仕事は、決して気持ちの良いものではなく、その感情に終わりが来ることは無いでしょう。不正受給の誘惑にかられないように自らを律していただきたいところです。

  • 村田淳(Atsushi Murata)
    村田淳(Atsushi Murata)

    えん社会保険労務士法人代表。 社会保険労務であると同時に、100時間の傾聴訓練を積んだ産業カウンセラーでもある。 実務面と心理学の両面で中小企業や店舗をサポートしている。スーツや靴をオーダーメイドで作る喜びに最近目覚めてしまった。

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