「日本人はお金持ち」と聴いたことはあるでしょうか。
そう言われてきた大きな理由の一つが『国内における貯蓄高の大きさ』です。
これまで一般的に考えられてきた資産形成は、『通帳に記載されている預金残高を増やすこと』と同義語でしたし、それが今は間違いという事でもありません。
第1章:資産形成とは?
またほんの…約30年前、バブル期と呼ばれる時期における銀行の普通預金金利は3%、定期預金に至っては5%にもなりました。コツコツと銀行にお金を預けていれさえすれば、特に何も考える必要もなく、資産は増えていきました。
ただ残念ながら、銀行における現在の普通預金金利は、0.001%です。仮に毎月3万円を20年間貯めたとしても、10年後の利息は578円です。昔の感覚とだいぶ差がありますね。
また、時代とともに物価も少しずつ上がっていく(インフレする)と見込まれます。例えば1万円を持っていても、物価が上昇していくのであれば1万円で購入できるものは減っていきます。つまり資産は目減りしてく、と言えます。
少なくとも自分自身の資産の価値を守るためには、インフレ率に負けない利率で運用する必要が出てくるわけですが、現在の一般的な銀行預金金利では難しいですし、利率が急激に上昇するとも考えづらいです。
これからは銀行預金一択ではなく、様々な金融・運用商品や現物資産などを活用し、ご自身の資産の価値を守り、育てていく『資産形成』という視点が必要不可欠となってくると考えます。
第2章:どうして資産形成が必要なのか
日銀の調査統計局が発表している「資金循環の日米欧比較(2020年)」に、日本・欧州・米国における『家計の金融資産構成の比較』が記載されています。
現金・預金比率は、日本54%、欧州35%、米国14%と、日本がダントツの1位となっています。
株・投資信託の比率に目を移してみると、米国、33%、欧州17%、日本9%…と、見事に逆転しています。
インターネット等を通じて投資教育の必要性が認知されつつある昨今でも、この割合です。
国としても現在様々な税制優遇等を盛り込んだ投資支援策等を打ち出しておりますが、実際に投資・運用を活用して、資産形成を始めている方はまだまだ少ないのが日本の現実です。
これまでの金融教育自体の遅れが取りざたされてはおりますが、これまで日本では文化として「他人の財布」についての話題は避けることが美徳とされてきた背景もあります。
お金は汗水たらして一生懸命稼ぐもので、そのお金を話題とすることはいやらしい、という事ですね。
労働に対して正当な報酬を頂く事自体は間違いではないのですが、逆にお金に関する様々な情報が回りづらい背景もありました。
とはいっても我々はお金が万能な資本主義社会で生活しておりますので、生きている間はずっとお金の問題と向き合う必要があります。
これからは銀行預金一択ではなく、様々な金融・運用商品や現物資産などを活用し、ご自身の資産の価値を守り、育てていく『資産形成』という視点が必要不可欠となってくると考えます。
第3章:積立年金とは
老後に向けての資産形成として積立年金という選択肢がありますが、今回は大きく分けて2つの方法をお伝え致します。
①個人年金保険
一定の期間まで保険料(掛金)を払うと、個人で決めておいた年齢から一定期間もしくは生涯にわたって年金を受け取れる、貯蓄型の保険商品となります。
基本的には自分自身の老後への積み立てとして選択している方が多いですが、受取期間中に亡くなってしまった場合は残存期間は残されたご家族が受け取れる形など、保険商品ならではの機能を兼ね備えた商品設計も可能です。
積立期間中に亡くなってしまった場合にも、積立額と運用利益が死亡保険金として遺族に支払われます。死亡保険金は受取人固有の財産ですので、口座凍結されずに速やかに必要な経費(お葬式代等…)に充てることも可能です。
②個人型確定拠出年金(iDeCo)
毎月一定額を積み立て、それを掛け金として運用させ、その運用益と掛け金に基づいた年金を受け取る事が出来る制度で、2017年からiDeCoという名称でスタートしました(もともと個人型確定拠出年金は存在はしていました)。
会社員に限らず、公務員、学生、自営業、パートタイマーから主婦に至るまで日本国民の全員が加入可能となっています。
60歳以上となった以降に年金として受け取れることができますが受け取り方も3種類選択可能です。
一定期間の分割受取、一括受取、一部分割+一部一括、…とありますが、各個人の退職金の有無などを考慮して、税負担が増えないように工夫する必要があります(後述)。
第4章:積立年金のメリット
ここでは個人年金保険、iDeCoそれぞれのメリットを確認してみましょう。
①個人年金保険のメリット
一番のメリットは、『強制天引き』という事です(デメリットに聞こえるかもしれませんが)。
「将来のために…」と、毎月一定額を銀行口座に貯金をしようと思って、定年退職まで間違いなく続けられる自信のある方はいるでしょうか。
急な出費が重なって出来ない時があったり、続けてはいても逆に引き出してしまったり、万が一収入に変化があったときに続けることが難しくなったりと、様々な状況が考えられます。
貯蓄というものに対して、どうしても意志だけではどうにもならなくなることが生じるのは、不可抗力です。
つまり、ある程度強制力を持った『お金が貯まる仕組み』を作らないと将来の目標額は貯まらない、と言えます。
保険は契約をすると、毎月強制的に掛け金を支払いますので強制力が生まれます。また解約しないと止まらないのですが、解約にも多少手間がかかりますので結局放っておくことになると思います。
結果として勝手にお金が貯まっているという事になります。
つまり『強制天引き』は、貯蓄という事に関していうと、最大のメリットなのです。
また支払った掛け金は生命保険料控除の対象となりますので、所得税と住民税においての節税効果もあります。
貯蓄も節税もできる運用商品であれば、無理のない範囲で積むのは良い選択と思います。
②個人型確定拠出年金(iDeCo)のメリット
まずは掛け金が「全額」所得控除される点です。課税所得を下げることによって、目に見える形で節税効果を実感できるかと思います。
また、運用時に、利益に税金がかからない形となっています。
また受取時に一括受取を選択することによって、退職金受取という扱いになりますので、退職所得控除対象となります。お勤め先の退職金の額にもよりますが、一部一括受取も選択できますので、工夫次第では税金を低く抑えることも可能です。
第5章:積立年金の注意点
では反対に、それぞれのデメリットも確認いたしましょう。
①個人年金保険のデメリット
契約後に解約したくなった時、契約期間に応じた解約返戻金を受け取ることができます。ただし早期の解約(10年以内)の場合、支払った掛け金を下回る返戻金となります。
中長期間コツコツと掛け金を積んでいって初めて、将来にメリットを享受できますので、契約時以降も見越して、無理のない掛け金の設計をすることが重要です。
②個人型確定拠出年金(iDeCo)のデメリット
まずiDeCoを開始するにあたって、口座開設手数料として役2,800円が必要です。
加えて、口座維持費が月額で掛かってきます。これは約170円~600円と、金融機関によって差があります。
iDeCoは開始後60歳まで原則として中途解約ができませんので、トータルとして見ると利用する金融機関によっては大きな差が生じてくるところです。
上記の通りに中途解約できない点を踏まえて、余裕をもって続けていける金額で始めることが重要です。最悪の場合運用停止もできますが、停止している間も口座維持費は変わらず掛かってくることにも留意しましょう。
長期間付き合う金融商品という事を踏まえて、検討すると良いでしょう。
第6章:つみたてNISAとは
つみたてNISAとは、投資初心者・未経験者が長期・継続的にわたって行う資産形成をサポートしてくれる非課税制度として、2018年1月に開始されました。
実はもともとイギリスに個人用貯蓄口座『ISA』という制度があり、イギリス国民の成人人口の約半数がISA口座を保有しており、資産形成の手段として広く活用されています。その文化を日本にも…ということですね。
言わば『ISA』の日本輸入版のようなもの、ということです。
さて利用者の皆様がまず意識するNISA最大のメリットは、「運用益が非課税で受け取れる」という事です。実際には、年間40万円の投資枠に対して発生した収益に対して最長で20年の間、非課税となります。
つみたてNISAを利用するにあたっては、専用の口座(つみたてNISA口座)を、金融機関(銀行・証券会社など)で開設する必要が有ります。
ちなみに定期・継続的とされる購入の頻度は「毎日」「毎週」「毎月」「年2回のボーナスのみ」など、金融機関によって異なってきますので、事前に確認することが必要です。
※『開設しようとする年度の1月1日に日本に居住している満20歳以上の方』であれば利用が可能です。
※0~19歳の方は、『ジュニアNISA口座』の利用が可能です。
つみたてNISAの対象となる商品の運用は大きく分けて2種類となります。
「インデックス型投資信託」…指数(インデックス)と同様の値動きを目指す運用手法
「アクティブ型投資信託」…指数を上回る運用を目指す運用手法いずれも『一定の条件を満たして金融庁に届け出が出された株式投資信託・ETF(上場投資信託)』に限定されています。
なお、つみたてNISAとは別に一般NISAと混同している方も(まれに)いらっしゃいます。つみたてNISAと一般NISAは併用が出来ませんので、どちらか1つを選択する必要が有ることはご留意ください。
つみたてNISAを最大限活用するために、制度の要点(メリット・デメリット)を理解してから始めると良いでしょう。
第7章:積立NISAのメリット
積立NISAのメリット①節税
通常投資で得られた収益に対しては20%の所得税が課せられます。しかしつみたてNISAからの収益に関しては、制限付きではありますが、全額非課税として受け取ることが可能です。
『非課税対象の定義』について金融庁のHPを覗いてみると『一定の投資信託への投資から得られる分配金や譲渡益』とされています。
年間40万円の非課税投資枠に対し20年間、運用益に対して非課税となります。また、非課税投資枠は20年間で最大800万円まで取ることができます。コツコツとお金を積み上げて、運用益は非課税で受け取ることが出来るのは大きなメリットでしょう。
積立NISAのメリット②運用コストが安い
まず、販売手数料が無料となっています。また、投資信託保有期間中にかかる信託報酬(運用管理費用)に上限が設けられてもいます。
「インデックス型投資信託」…国内資産のみに投資するものの運用管理費用⇒0.5%以下/年、海外資産に投資するものは⇒0.75%以下/年。
「アクティブ型投資信託」…国内資産のみに投資するものの運用管理費用⇒1%以下/年、海外資産に投資するものは⇒1.5%以下/年。
一般的な投資信託の商品を見渡してみると信託報酬0.15%など割安なものも多く存在しますが、つみたてNISAで販売されている商品は全て金融庁が一定の条件下で選定した商品であることを勘案すると、これから運用を始める方にとっては安心材料となるでしょう。
第8章:積立NISAの注意点
始めるにあたってはもちろん幾つか注意点を箇条書きで列挙致します。
①元本保証は無い
つみたてNISAにおいて非課税となる投資枠は40万/年までとなります。また、未使用分があっても翌年以降への繰り越しはできません。
②非課税枠
つみたてNISAにおいて非課税となる投資枠は40万/年までとなります。また、未使用分があっても翌年以降への繰り越しはできません。
③非課税期間
最長で20年と定められています。非課税期間が終了した後は、NISA以外の課税口座に払い出されてしまいます。
④制度が期限付き
現在つみたてNISAは、2037年までの制度とされています。
※2037年中に購入した投資信託は20年間非課税で保有することはできます。
⑤損益通算は不可
NISA口座で損失が生じた場合でも、他の口座で保有している金融商品との損益通算はできません。また、現在保有している金融商品をNISA口座に移すこともできません。
⑥繰り越し控除も不可
一般的な運用商品においては、損益通算で引ききれなかった損失を3年間にわたって繰り越して、翌年以降の利益から差し引くことができます。結果として3年間にわたって税負担を減らせる制度を、つみたてNISAでは不可となっています。
制度上いくつかのデメリットは見受けられますが、資産形成の方法として運用益を非課税で受け取れるメリットを使わないのはもったいないですね。
2037年までという期限の中で、最大限のメリットを享受できるようにリスクを踏まえながら検討するとよいでしょう。
第9章:資産形成の始め方
資産を増やすことは一朝一夕ではできません(○○ジャンボ宝くじが当たれば別ですが…)。資産を増やすためには『時間』が必要不可欠ですが、自分自身の暮らしも並行して過ぎていきます。その時間の流れの中で、様々なライフイベントも訪れると思います。
必要なものは、当然『お金』です。何をするにも、まず『お金』(笑)。つまりお金を使う事と、お金を育てることを同時にこなしていかなくてはならないという事です。
ただそのバランスを取ることはなかなか難題ではないでしょうか。使いすぎては貯まりませんし、『将来のため』と必要性を感じていても現在の暮らしが貧しくなってしまっては楽しくありません。
一番の解決方法は、『まず現状の確認と未来のカンニングをすること』と考えます。現状の生活形態を続けていった場合の将来の予想される金融資産状況を可視化することによって割り出した必要額に対して、最適な資産形成の方法を選択することができます。
まずはご自身のキャッシュフローを作成してみることをお勧めいたします。
現状の生活環境や将来描いている希望は十人十色ですので、各々が実現できるように、それぞれが最適な手段を選択する事。まずはその判断基準を作ってみる事が、一番の近道です。
第10章:美容サロンオーナーが知っておきたい!現役保険代理店が教える積立年金・積立NISAまとめ
『資産形成』と呼ぶとなんだか堅苦しく・難しく聞こえたり、どこか他人事のように感じられるかもしれません。
FPの仕事に関わらせて頂き、沢山のお客様とお話させて頂いている中で、今後の自分の家計の推移がどうなっていくのかという関心は高まっていると感じます。
例えば5年前はマネーセミナーを開催してもご参加いただける方は片手で数えられるほどでしたが、現在は満員御礼の回も珍しくなくなりました。
多く頂くお声の一つに「手元に残るお金が少なくなった」というものがあります。実は昔に比べて、世帯年収自体は増えています。これは単純に共働き世帯が増えた事が原因です。
しかし家計のやりくりは以前に比べて苦しくなったと感じている方が多いように見えます。
実際、奨学金の申請件数は20年前と比べて倍近くに増加しています。せっかく稼いだお金を資産形成という方法で守っていなかったため、手元に残る資産が知らない間に減ってしまっていた…、ということになりかねません。
自分自身の大切なお金を守るためには、まずは情報を得る事、そして自分自身の資産形成の設計図を作り、未来にかかってくる必要額を認識し、逆算して最適な方法を選択する事。
ゴールを認識することで、自分の取るべき正しい道筋が見えてくるでしょう。