助成金とは、国や地方自治体が美容室経営者などの事業者を支援するために交付するお金です。
美容室経営者が知るべき助成金とは
金融機関からの借入金とは異なり、返済義務のないお金ですので、経営者にとってはとても力強い味方となります。
ただし、助成金は、税金をもとに支援が行われるものであるため、自由に使えるお金ではなく、用途は細かく定められています。
助成金の場合、厚生労働省が管轄している雇用に関することに交付されるのが一般的で、社会保険労務士が支援を行うことが多いようです。
具体的には、正社員を増やすことやスタッフの教育に関わること、育児休業の活用や有給休暇を増やすことなど、美容室経営においても対象となるものは数多くあります。
助成金を活用して美容室の労働環境を改善することは、スタッフのモチベーションを向上させるだけでなく、人材の確保にもとても役に立つことになります。
離職率の高い美容業界では、人材の確保は重要な経営課題の一つであるといえます。つまり、助成金は、課題を解決するツールになるのです。
一方、助成金の交付は後払いであるうえ、交付決定後すぐにもらえるものではありません。また、支出分を全額支給してくれる助成金はあまりないため、かかった費用の一部が後から返ってくる、というぐらいに考えておくとよいでしょう。
助成金と類似するものに補助金という制度があります。補助金は、経済産業省によるものが多く、助成金とは目的や対象などが異なっています。いずれも、美容室の経営者にとって有効な制度が多く整備されています。

助成金と補助金
美容室の創業に使える補助金「創業助成金」
これから美容室を始めようとしている方の多くは、初期費用を少しでも抑えたいと考えているのではないでしょうか。美容室に限らず、起業や創業を計画している方を支援するための補助金・助成金は数多くあります。第2章では創業助成金を紹介していきます。
東京都および公益財団法人東京都中小企業振興公社が実施する創業助成金は、創業助成事業の一つとして、都内で創業を予定している方や創業間もない方(創業後5年未満)を対象としています。
賃借料や広告費、器具備品購入費、従業員人件費などの必要な経費の一部を支援するというもので、設備などに多くの初期費用を必要とする美容室にとって、とても有効な助成金であるといえます。
申請の条件は、18種類ある創業支援事業のうち、いずれか一つを満たせばよいことになっています。なかでもTOKYO創業ステーション「プランコンサルティング」の事業計画書策定支援は、創業の相談に乗ってもらいながら支援を受けることができるので、お薦めの事業の一つです。
書類審査と面接審査によって交付対象が決定されることから、創業助成金を申請してから受給されるまでには、ある程度の時間が必要となります。申請を検討する際は、ゆとりを持ったスケジュールで計画を立てるとよいでしょう。

創業助成金に関して
東京都内で創業される方が対象となる創業助成金に対し、全国の自治体には創業補助金という制度が設けられています。
各年度によって名称を変えていますが、2019年度からは「創業支援等事業者補助金」という名称になっています。美容室を開業しようとする地域が対象地域に当てはまるかは、中小企業庁のホームページで確認することができます。
また、自治体が独自で創業補助金を用意しているものもあります。あらかじめ自治体のホームページなどで確認をしておきましょう。
美容室のスタッフの雇用に使える助成金①「トライアル雇用助成金」
離職率が高いとされる美容業界では、スタッフの定着率を向上させることは、経営者にとっての重要な課題の一つです。時間をかけて採用したのに短期間で辞められてしまっては、採用コストだけでなく経営者の労力的にもデメリットになるといえます。
長期間のブランクや就業経験不足から、就職が困難な求職者を救済する目的として作られた制度に、トライアル雇用(試行雇用)があります。
経営者としても、その試行雇用期間で、適性や能力を見極めることができ、採用後のミスマッチを回避できるメリットがあります。そして、その試行雇用に対し交付される助成金に、トライアル雇用助成金があります。
トライアル雇用助成金には、「一般トライアルコース」と「障害者トライアルコース/障害者短時間トライアルコース」がありますが、ここでは「一般トライアルコース」を紹介します。
トライアル雇用助成金の交付を受けるためには、トライアル雇用対象者(求職者)、トライアル雇用を行う事業主(美容室経営者)それぞれに満たさなければならない要件があるほか、以下の申請書類が必要となります。申請様式は、記載例も含め厚生労働省のホームページより入手できます。
①トライアル雇用実施計画書様式
- トライアル雇用実施計画書(共通様式第1号)
- トライアル雇用対象者確認票(実施様式第1号)
- トライアル雇用助成金支給対象事業主要件票(実施様式第2号)
②結果報告書兼支給申請書様式
- 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
- トライアル雇用結果報告書兼トライアル雇用助成金支給申請書(共通様式第2号)
トライアル雇用実施計画書の提出期間は、トライアル雇用の開始から2週間以内、結果報告書兼支給申請書の提出期間は、トライアル雇用の期間終了後2カ月週間以内となっています。

トライアル雇用まとめ
また、トライアル雇用助成金の受給額は、雇用対象者1人あたり4万円、受給期間は最長3カ月間となっています。採用時だけでなく採用後のスタッフ教育などにもコストがかかる美容室にとって、とても有効な助成金であるといえます。
美容室のスタッフの雇用に使える助成金②「キャリアアップ助成金」
キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善など、非正規雇用労働者のキャリアアップに取り組んだ事業主に対して助成金を交付する制度です。美容室においても、スタッフのモチベーションを高めることはもちろん、生産性向上にも期待ができるため、有効な助成金の一つであるといえます。
キャリアアップ助成金には次の7種類のコースがあります。
正社員化コース
有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合に助成。
賃金規定等改定コース
有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を2%以上増額改定し、昇給させた場合に助成。
健康診断制度コース
有期雇用労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、延べ4人以上実施した場合に助成。
賃金規定等共通化コース
有期雇用労働者等に対して、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に助成。
諸手当制度共通化コース
有期雇用労働者等に対して、正規雇用労働者と共通の諸手当に関する制度(諸手当制度)を新たに設け、適用した場合に助成。
選択的適用拡大導入時処遇改善コース
労使の合意のもと、有期雇用労働者等を新たに社会保険の被保険者とした場合に助成。
短時間労働者労働時間延長コース
有期雇用労働者等に対して、週の所定労働時間を延長するとともに処遇の改善を図り、新たに社会保険の被保険者とした場合に助成。

キャリアアップ助成金まとめ
キャリアアップ助成金のコースのなかで、最も受給額が大きいものが正社員化コースです。
中小企業事業主(多くの美容室経営者が対象となります)であったり、生産性の向上が認められたりすると、受給額が増額されるのが特徴的な助成金で、有期雇用のスタッフを正規雇用に転換(正社員化)した場合、1人あたり72万円を受給することができます。
美容室のスタッフの雇用に使える助成金③「人材開発支援助成金」
人材開発支援助成金とは、正規雇用労働者に対して職務に関連した専門的知識や技能獲得のための訓練等を実施した場合や、育成に向けた制度導入を行った事業者に交付される助成金です。
前章のキャリアアップ助成金との相違点は、助成対象者と助成目的にあります。
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者が対象で雇用安定や処遇改善の推進を目的としているのに対し、人材開発支援助成金は、正規雇用労働者が対象で企業の永続的な発展を目的としています。
人材開発支援助成金には、「特定訓練コース」「一般訓練コース」「教育訓練休暇付与コース」「特別育成訓練コース」「建設労働者認定訓練コース」「建設労働者技能実習コース」「障害者職業能力開発コース」の7つのコースがあります。コースごとに実施内容や助成の種類が異なり、それぞれが複雑な内容となっています。
ここでは、美容室が取り組みやすい「特定訓練コース」「一般訓練コース」をまとめました。
特定訓練コース
職業能力開発促進センターなどが定める特定の訓練を受講した場合に助成されます。OFF-JTのみで実施するコースと、OFF-JTとOJTを併用するコースの二つに分けられます。
1)OFF-JTのみ(訓練時間数は10時間以上)
- 労働生産性向上訓練
- 若年人材育成訓練
- 熟練技能育成・承継訓練
- グローバル人材育成訓練
2)OFF-JT+OJT(訓練時間数は厚生労働大臣が認定した時間)
- 認定実習併用職業訓練
- 特定分野認定実習併用職業訓練
- 中高年齢者雇用型訓練
助成内容は、OFF-JTで賃金助成(760円/1人1時間当たり)、経費助成(対象経費の45%)、OJTで実施助成(665円/1人1時間当たり)となっています。
一般訓練コース
特定訓練コースの要件に該当しない訓練を実施した場合に助成されます。こちらは、OFF-JTのみ(訓練時間数は20時間以上)で実施されるものになります。
一般訓練コースの助成内容は、賃金助成(380円/1人1時間当たり)、経費助成(対象経費の30%)となっています。
生産性の向上が認められる場合などは、助成額や助成率が変わり、増額されることがあります。中小企業庁のホームページなどで確認をしておきましょう。

人材開発支援OJTとは
美容室のスタッフである美容師は、常に腕を磨かなければなりません。このような技術の鍛錬が必要なスタッフの訓練に対しても、人材開発支援助成金は対象となります。スタッフの技術を向上させ、美容室全体のレベル向上も図ることができる人材開発支援助成金は、美容室経営者にとっても力強い味方となります。
美容室のスタッフの雇用に使える助成金④「人材確保等支援助成金」
人材確保等支援助成金は、魅力ある職場づくりのために労働環境の向上等を図る事業主に対して助成されるものです。雇用の創出を図ることにより、人材の確保・定着を目的としています。
人材確保等支援助成金には、次の7つのコースがあります。
雇用管理制度助成コース
雇用管理制度の導入・実施を行い従業員の離職率の低下に取り組む事業主に対して助成。
人事評価改善等助成コース(第7章)
人事評価制度や賃金制度の整備によって、生産性の向上・賃金アップ・離職率の低下に取り組む事業主に対して助成。
設備改善等支援コース
雇用管理改善計画を作成し、その計画による設備導入を行い、雇用管理改善(賃金アップなど)・生産性向上を実現した場合に助成。
働き方改革支援コース
働き方改革のために人材を確保することが必要な中小企業事業主が、新たに労働者を雇い入れ、一定の雇用管理改善を達成した場合に助成。
介護福祉機器助成コース
労働者の身体的負担を軽減するため新たな介護福祉機器の導入等を行い従業員の離職率の低下に取り組む介護事業主に対して助成。
介護・保育労働者雇用管理制度助成コース
賃金制度の整備を行い従業員の離職率の低下に取り組む介護・保育事業主に対して助成。
中小企業団体助成コース
改善計画の認定を受けた中小企業団体(事業協同組合等)が傘下の事業者のために、人材確保や従業員の職場定着を支援するための事業を行った場合に助成。
美容室の場合は、「1. 雇用管理制度助成コース」「2. 人事評価改善等助成コース」の2つのコースが申請しやすそうです。「2. 人事評価改善等助成コース」については、次章で解説いたします。
人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)は、雇用管理制度(評価・処遇制度、研修制度、健康づくり制度、メンター制度、短時間正社員制度(保育事業主のみ)のいずれか1つ以上を選択)を導入し、離職率低下の目標を達成した場合に助成されるものです。
低下させる離職率の目標値はスタッフの人数によって細かく分類されており、そう簡単に達成できるものではありません。しかし、実現した場合は57万円(生産性要件も満たした場合はプラス15万円)を受給することができ、離職率が高いとされる美容室にとっては、スタッフの定着と助成金受給という二重のメリットを得ることができます。

雇用管理制度
美容室のスタッフの雇用に使える助成金⑤「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」
人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)は、人事評価制度を整備し、生産性向上や賃金アップ、離職率の低下を図る事業主に対して助成されるものです。助成内容には、制度整備助成と目標達成助成の2段階の助成があります。
①制度整備助成
賃金アップを含む人事評価制度等を整備し、管轄の労働局の認定を受け、導入・実施した場合に助成。
②目標達成助成
人事評価制度等の整備を通じ、離職率の低下、賃金アップ、計画開始から3年後の生産性向上の要件を達成した場合に助成。
制度整備助成の受給額は50万円、目標達成助成の受給額は80万円となっており、目標まで達成できれば合計130万円の助成を受けることができます。

人事評価改善等助成コース
美容室においても、スタッフのモチベーションを向上させるには、賃金アップもさることながら適切な評価も重要な要素の一つとなります。
モチベーションが上がれば、離職率の低下という好循環も生まれ、生産性の向上も十分に期待できます。一方で、経営者の立場からすると、賃金のアップは美容室経営の負担となる一面も持ち合わせています。
スポットでの受給となる助成金目当てに、恒久的な支出増加となる賃金アップを実施するということは避け、慎重に検討する必要があるでしょう。
美容室経営者が知るべき補助金とは
補助金とは、助成金と同様に、美容室経営者などの事業者を支援するために交付するお金です。一見区別しにくい二つの制度ですが、それぞれ性格が異なります。
助成金は、厚生労働省によるものが多く、雇用や人材育成、労働環境の改善を行う事業者への支援が中心でした。一方、補助金は、経済産業省によるものが多く、国の政策目標実現のために、その政策目標に沿った事業を行う事業者への支援が中心となっています。
また、助成金は、要件を満たせば受給可能であるのに対し、補助金の場合は、申請しても交付されないことがあります。そのほか、助成金はいつでも申請できるものが多いのに対し、補助金は1カ月程度の短期間で申請しなければならないものが多いなど、補助金の方が狭き門と言われています。
ただし、補助金は、設備投資そのものも補助の対象になるため、設備などに多くの資金が必要となる美容室にとって、とても有効な支援の一つであるといえます。
補助金の審査に通りやすくするには、経営革新等支援機関(認定支援機関)の支援を受けるとよいと言われています。申請をする際は、中小企業庁から経営革新等支援機関の認定を受けた金融機関や税理士・中小企業診断士など、専門的知識や支援に係る実務経験を一定レベル以上保有する機関に相談するとよいでしょう。

補助金とは
美容室の販路開拓で使える補助金「小規模事業者持続化補助金」
美容室に限らず、多くの経営者にとって、集客や新規顧客開拓などの販路開拓は、重要な課題の一つです。
高い技術を持ったスタッフが多く在籍し、差別化が図られたサービスを提供しているとしても、顧客に認知されなければ売上にはつながりません。
小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)とは、小規模事業者が行う販路開拓や生産性向上の取組に要する経費の一部を支援する制度です。
小規模事業者であることという要件があるので、サービス業に分類される美容室は、常時雇用するスタッフが5名以下である必要があります。
その条件を満たしていれば、最寄りの商工会議所または商工会のサポートを受けながら経営計画書等を作成すれば申請が可能です。
持続化補助金は、「一般型」と「低感染症リスク型ビジネス枠」に分類されます。「一般型」の補助金額は、補助対象経費の3分の2以内で上限が50万円となっています。
美容室の場合は、「新規顧客獲得のためのチラシ作成費・ポスティング費・ホームページ制作費」「高齢者顧客獲得のための設備導入費」などが対象となります。
「低感染症リスク型ビジネス枠」の補助金額は、補助対象経費の4分の3以内で上限が100万円です。オンライン化のためのツール・システムの導入費やECサイト構築費などが対象となっています。
多くの補助金同様、対象経費の全額が補助されるものではなく、自己負担分もあることに留意が必要です。また、助成金と異なり、補助金はいつでも申請できるものではありません。

持続化補助金まとめ
指定された募集期間内に申請しなければならず、追加募集が実施されたりすることもあります。申請を検討する場合は、中小企業庁や商工会議所、商工会のホームページなどで募集時期をこまめに確認しておきましょう。
美容室のITツール導入に使える補助金「IT導入補助金」
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等が自社の課題やニーズに合ったITツールの導入を支援する補助金です。つまり、業務の効率化や自動化を推進する目的でITツールを導入した場合に、その導入費用の一部を補助金として受給できるものです。
美容室の場合には、「ホームページ制作」「予約ソフト導入」「レジシステムの導入」「財務管理システム導入」など、対象となる導入費用は多いようです。
IT導入補助金は、大きく「通常枠」と「低感染リスク型ビジネス枠」の2つに分類されています。
「通常枠」は、さらに「A類型」と「B類型」に分かれており、いずれも導入費用の2分の1の交付を受けることができます。「A類型」は、指定された6つの業務プロセスのうち、必ず1つ以上を担うソフトウェアなどのITツールを導入する必要があり、補助額は30万円以上150万円未満となっています。
一方の「B類型」は、6つの業務プロセスのうち、必ず4つ以上のITツールを導入する必要があり、補助額は150万円以上450万円以下であることが条件となります。
「低感染リスク型ビジネス枠」は、「低感染リスク型ビジネス類型(C類型)」「テレワーク対応類型(D類型)」に分けられていて、補助率はいずれも3分の2となっています。
「C類型」は、複数のプロセス(販売管理と労務など)を非対面化して、生産性の向上を図るITツールの導入が対象で、補助額は30万円以上450万円以下です。「D類型」は、生産性向上のために、テレワーク環境の整備のためのクラウド型ITツールの導入が対象で、補助額は30万円以上150万円以下となっています。
下限額が30万円と定められているため、そう簡単に実施できるものではありませんが、対象となる導入経費が多い美容室においては、最も申請しやすいかもしれません。

IT導入補助金類型まとめ
補助金や助成金は、内容や手続きに複雑なものが多い一方、誰も教えてくれず、知った人が得をする制度であるといえます。。国や地方自治体など、多くの公的機関がこの制度を整備していますので、対象となる制度を確認し、美容室の安定経営につなげるツールとして利用していきましょう。