美容室経営者が使える「小規模事業者持続化補助金」

美容室経営者が使える「小規模事業者持続化補助金」

 

いきなりですが美容室はコンビニよりも多いってご存じですか?

2020年3月末時点で、美容室は254,422店、コンビニは2020年1月時点で55,581店。なんとコンビニの約5倍も店舗数が多いのです。トリビア的に美容室の方が多いのは知っていたけど、まさか5倍も多いとは…と思った方も少なくないかと思います。私も調べてみてビックリしました。

単純にライバルが多いとそれだけ競争が激しくなります。美容室業界は数だけでみればコンビニ業界以上のとてつもない競争社会とも言えます。そんな環境下で生き残っていくには、美容室も日々進化していかないといけません。

進化論で有名なダーウィンの言葉を借りると「強い生き物が生き残るのではない、環境に適応した物が生き残る」のです。
そんな美容室を進化させる手助けになる制度「小規模事業者持続化補助金」について説明していきます。

 

美容室経営者が使える小規模事業者持続化補助金とは

 

まずは、本題の前にそもそも補助金とは「国の政策目標に基づき、事業活動の支援のために給付されるお金」です。補助金の特徴として下記の4点があります。

  1. 支援対象となる活動・事業者が限定
  2. 補助されるのは一部の費用
  3. 補助を受けるための審査がある
  4. 補助される費用は後払い

補助金の特徴を踏まえた上で、小規模事業者持続化補助金とはなにか?を説明していきます。今回はもっともポピュラーで基本的な「一般型」に絞って説明していきます。

小規模事業者持続化補助金は、従業員数などが少ない小規模事業者が対象の補助金です。
補助金の目的は、「地域の雇用や産業を支える小規模事業者等の生産性向上と持続的発展」であり、下記の2点を支援します。

  • 販路開拓等の取り組みの支援
  • 販路開拓等とあわせて行う業務効率化・生産性向上の取り組みの支援

つまりは、販路開拓と新商品開発などの生産性向上の2つにかかる経費を補助する制度となっています。窓口は商工会・商工会議所になっています。補助率は補助対象となる経費の2/3。

補助額は上限50万円以内(複数の事業者が連携して取り組む共同事業の場合は100~500万円)となっています。
新型コロナウイルス対策の特別型は通常よりも補助率・補助額が緩和されています。

詳しくは、公募要項、日本商工会議所小規模事業者持続化補助金ページをご覧ください。
日本商工会議所小規模事業者持続化補助金メニュー(https://jizokukahojokin.info/)

 

小規模事業者持続化補助金で補助される金額

 

販売促進等の取組に使えるとは言え、何でもかんでも補助対象になるわけではありません。
補助事業の対象となる費用は、下記の13種類の費用に含まれ、かつ(1)~(3)の条件をすべて満たすものが、補助対象経費となります。

 

補助対象となる費用

①機械装置等費
②広報費
③展示会等出展費
④旅費
⑤開発費
⑥資料購入費
⑦雑役務費
⑧借料
⑨専門家謝金
⑩専門家旅費
⑪設備処分費(補助対象経費総額の1/2が上限)
⑫委託費
⑬外注費

 

補助対象経費となる条件

 

  1. 使用目的が本事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
  2. 交付決定日以降に発生し対象期間中に支払が完了した経費
  3. 証拠資料等によって支払金額が確認できる経費

費用の種類が限られているとは言え、範囲は広いのでかなり幅広い費用が対象となりえます。
使った費用に対して、下記の補助率・上限額で計算された金額が補助されます。

  • ・補助率:2/3以内
  • ・補助上限額:50万円以内

補助額の計算例をあげると、75万円の費用が補助対象経費となる場合、75万×2/3=50万で、上限いっぱい50万円の補助を受けられます。

90万円の費用が補助対象経費となった場合は、90万×2/3=60万ですが、補助上限が50万円なので補助されるのは50万円となります。

 

小規模事業者持続化補助金でできること/できないこと

 

補助される費用を書きましたが、これだけでは中々どんなものに使えるのかイメージが湧きにくいですよね。ここでは、どのようなものが補助対象となり、どのようなものがNGなのかを紹介していきます。

補助事業として認められるためには、小規模事業者持続化補助金の目的に沿った事業であることが大前提となります。

  • 販路開拓等の取り組み
  • 販路開拓等とあわせて行う業務効率化・生産性向上の取り組み

に該当する事業であることが求められます。要するに、「売上アップ」に資する取り組みが補助対象となるのです。

 

◆補助金でできることの例

 

  • チラシ作成、ホームーページ作成:②広報費、⑬外注費
  • 新型の促進機、パーマ機器、ヘッドスパ機器の導入:①機械装置等費
  • 看板、外装の改装:⑬外注費
  • スタッフ教育:④旅費、⑥資料購入費、⑨専門家謝金
  • 経営、マーケティング戦略の構築:⑨専門家謝金、⑩専門家旅費

などなど、肝心なのはこういった取り組みが売上アップに寄与するのを明確に示せないと、申請しても採択されないということです。補助金を使える範囲は広いので「何に使えるか」はあまり心配いりません。

「何に使うか」よりもむしろこの補助金を使って「何をするのか」が重要になってきます。

 

◆補助金でできないこと

 

補助金でできないことは、できることの裏返しで、「売上アップ」と関係ないものは使うことができません。例えば文房具のような事務用品の購入といったことには使えません。

そして、当たり前ですが補助対象外の費用には使えないので、借金の返済や給与や家賃の支払いといったことにも使えません。

また、注意が必要なのは(1)使用目的が本事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費という条件です。補助事業以外でも容易に転用できるような汎用性の高い物品、車やスマホ・パソコンなどは基本的には補助金の対象にはなりません。補助金の原資=みんなの払った税金です。

「それって本当に審査した事業で使うの?大切な税金である補助金で余計なものを買わないでよ」という懸念があるのです。

「これは、補助金の対象にしていいのか?」と少しでも不安に思うものがある場合、商工会・商工会議所で相談・確認をしてもらいましょう

具体的にどのような事業が実施されているかは、採択者一覧で補助事業の名称が公開されているので、美容室に関連するものを探してみて、イメージをつかんでみましょう

日本商工会議所 小規模事業者持続化補助金ページ 採択者一覧
(https://r1.jizokukahojokin.info/index.php/saitaku/)

 

どのような美容室経営者が小規模事業者持続化補助金を受けられるのか

 

ここまで補助金の中身について説明してきましたが、小規模事業者持続化補助金の対象となる美容室はどのような美容室でしょうか?

条件となるのは下記の7つの要件すべてを満たす事業者です。

  1. 小規模事業者であること
  2. 資本金または出資金が5億円以上の法人の100%子会社でないこと
  3. 直近過去3年分の各年度の課税所得の年平均額が 15 億円を超えていないこと
  4. 申請する商工会議所or商工会の管轄地域内で事業を営んでいること
  5. 持続的な経営に向けた経営計画を策定していること
  6. 受付締切日の前10か月以内に、先行する受付締切回で採択を受けていないこと
  7. 暴力団、暴力団員、暴力団準構成員でないこと2020年度のみ
  8. 一般型、コロナ特別対応型のどちらか一方しか補助金は受け取れません

(1)の要件の小規模事業者の定義は業種によって異なります。業種別の小規模事業者の定義は下記の表のとおりになります。

小規模事業者の定義

小規模事業者の定義

美容室は「商業・サービス業」に含まれるため、常時使用する従業員の数が5人以下の美容室が対象になります。
(5)の要件の指す経営計画は、申請書に記載する内容であるので、別途用意する必要はありません。

 

小規模事業者持続化補助金の申請方法まとめ

 

小規模事業者持続化補助金の中身や対象者について解説してきました。では、実際に申請する時のことを書いていきます。

 

◆申請~交付決定までの流れ

 

小規模事業者持続化補助金の申請~交付決定までの流れ

小規模事業者持続化補助金の申請~交付決定までの流れ

小規模事業者持続化補助金ならではの特徴が、「②商工会・商工会議所での要件確認と事業支援計画書等の作成・交付依頼」です。

申請書類が用意できたら、所管の商工会・商工会議所に申請書類を提供して、申請要件の確認と様式4事業支援計画書等の作成・交付を依頼する工程を必ず実施します。

書類の作成があるので、即日交付されるわけではありませんし、書類に不備があれば手戻りして修正することとなります。なので、申請書類の作成~商工会・商工会議所への依頼の工程は〆切から余裕をもって、進めていく必要があります。

申請書類の作成時には、商工会・商工会議所の窓口でアドバイスをいただけるので、事業支援計画書等の作成依頼を出す前に1回は相談すると、早期に軌道修正ができるのでオススメです。

一般型で作成が必要な申請書類は下記通りです。

  • (様式1)小規模事業者持続化補助金事業<一般型>に係る申請書
  • (様式2)経営計画書兼補助事業計画書①
  • (様式3)補助事業計画書②【経費明細書・資金調達方法】
  • (様式5)補助金交付申請書

この4つの書類を作成して、「②商工会・商工会議所での要件確認と事業支援計画書等の作成・交付依頼」に進んでいきます。

書類提出段階では、下記の決算書類も追加して提出をしますのでお忘れなく。

  • 法人:直近1期分の貸借対照表、損益計算書
  • 個人事業主:直近の確定申告書または、開業届

 

小規模事業者持続化補助金の申請様式1の書き方

 

では、実際の申請書類をみていきましょう。一般型で作成が必要な申請書類は下記通りです。

  • (様式1)小規模事業者持続化補助金事業<一般型>に係る申請書
  • (様式2)経営計画書兼補助事業計画書①
  • (様式3)補助事業計画書②【経費明細書・資金調達方法】
  • (様式5)補助金交付申請書

まずは、様式1を見ていきましょう。

小規模事業者持続化補助金申請様式1

小規模事業者持続化補助金申請様式1

実際に記載する箇所は上記図の黄色の枠の中のみとなっています。
様式1と5は、各項目も少ないですし考えなくても書ける内容ですので、ど忘れ防止のためにも最初に書いてしまうと楽でしょう。

しかし、各項目が少ないとはいえ、確認は必要です。テストで名前を書かないと採点されないように、間違った情報を書いてしまうとせっかくいい計画を立てても不採択となってしまうので、十分に確認をしましょう。

 

小規模事業者持続化補助金の申請様式2の書き方

 

小規模事業者持続化補助金の申請書の中で、一番中心であり一番時間も労力もかかる様式2について紹介していきます。申請方法の箇所で説明したとおり、小規模事業者持続化補助金には「審査」があります。

その審査はこの様式2に書かれていることで採択されるか否かを判定しているといっても過言ではありません。審査員の方に皆様の事業と補助金を使って実施する補助事業がよく伝わるように、わかりやすくかつ説得力のある中身にしていきましょう。

様式2はこのような項目で構成されています。

 

◆経営計画書

 

  1. 企業概要
  2. 顧客ニーズと市場動向
  3. 自社や自社の提供する商品・サービスの強み
  4. 経営方針・目標と今後のプラン

 

◆補助事業計画書

 

  1. 補助事業でおこなう事業名
  2. 販路開拓(生産性向上)の取組内容
  3. 業務効率化(生産性向上)の取組内容(任意)
  4. 補助事業の効果

 

◆経営計画書

 

経営計画書では、主に現在の皆様の事業内容について書いていきます。言ってしまえば「自己紹介」となりますが、みなさんのことを全く知らない審査員が見るということを常に意識しなければいけません。

初めて会う人に対して、皆様の事業の将来性をアピールする場であります。完全に初対面で無関係な審査員にも1回読めば伝わる、わかりやすい文章構成と表現が求められます。

そして、経営計画書で挙げた強みや今後のプランなどの情報は、補助事業計画書と関連してきますので、補助事業とのつながりも意識して書いていくと、現在~補助事業までの流れをわかりやすく表現することができます。

 

◆補助事業計画書

 

補助事業計画書では、補助金を使って「何をするのか」を書いていきます。補助金はみんなの支払った税金が元手になっています。投入した税金以上の価値を生み出せるのか、やるだけの意義がある事業なのか?という問いに根拠を示しながら答えていく書類となります。

補助事業はどのような効果を見込めるのか、その効果には根拠があるのか、経営計画書で書いた経営の方針や今後のプランと補助事業との親和性を表現できると、一貫性のある計画となります。

具体的にどういったことを書くのかは、記入例が公開されているので参考にできます。
(https://r1.jizokukahojokin.info/index.php/sinsei/)

 

小規模事業者持続化補助金の申請書類作成のポイント

 

経営計画書など申請書類を作成する上で、重要なポイントとして「ストーリー」と「わかりやすさ」があります。

 

◆ストーリー

ストーリーは「話の筋が通っているか」ということです。これだけ聞きますと「話の筋が通っているなんて当たり前じゃない?」と思われるかもしれませんが、実際に書いてみるとなかなか難しいものです。

様式2の構成要素を関連付けて書いていくことによって、計画書全体のストーリーが整い「話の筋」がすっきりわかりやすく整えることができます。計画書を書く際には、各構成要素の関連性を意識して書いていきましょう。

小規模事業者持続化補助金様式2の構成要素の関連

小規模事業者持続化補助金様式2の構成要素の関連

話の流れだけでなく、関連性のある箇所で同じキーワードを登場させることで、構成要素のつながりを見つけやすくするようなテクニックを使うのも有効だと思います。

◆わかりやすさ

繰り返しになりますが、補助金が採択されるまでに「審査」があります。そして、審査を担う審査員の方は、みなさんの事業のことはまったく知らない赤の他人なのです。

「何を当たり前のことを…」と思いますが、みなさんのことを全然知らない人が、書類だけをみて評価しているのです。自分ではわかるが、知らない人が見たらわからないものはNGです。

しかも、審査員の方は何十件もの申請の審査をしています。忙しいのです。つまりは、「よくわからない」ものはサクサクと落とされてしまうのです。

わかりやすさを向上させるのは、なにも文章構成だけではありません。逆に文章では分かりにくいものは、積極的に別の手段を用いて視覚的にもわかりやすさを向上させていくとといでしょう。視覚的にわかりやすさを向上させるツールとして、

・写真

商品、サービス、店舗など事業のイメージを写真で伝えます。文章よりも情報量が格段に多いので、文章だと何十行もかかる情報を写真一つで伝えることもできます。

・図サービスの流れや関連性など、文章だけだと分かりにくい複雑な情報も図にすることで感覚的に捉えやすくなります。

・表
数値情報も文章に分散していると関係性や比較対象が分かりにくいです。月や年などの期間ごとの集計値やサービスごとの売上ランキングなど、表にすることでまとまりのある情報として認識することができます。

・強調

文章のなかでも、特に伝えたいメッセージや事業のキーワードが出てきます。「ココ大事だから注目!」と直接審査員の方には言えないので、それらの部分がパッと目につくようにする工夫が必要です。

太字表示、下線付き表示、「かっこで囲う」、囲み線を付けるといった方法がありますが、やりすぎると何が大事な箇所なのかが逆に分かりにくくなってしまうので、要注意です。

 

小規模事業者持続化補助金の申請書類作成の注意点

 

申請書類の作成にあたり、注意する点があります。書き方やテクニック、評価されるような内容もとても重要です。しかし、意外と内容以前の「間違い」が合否に大きく影響すると言われています。つまりは、内容で落とされるよりも前提条件のような部分でペケを食らってしまっている可能性もあるのです。

例えば、
◆申請自体がNGとなる可能性がある間違え

  • 住所や代表者名、法人番号など必須情報を書き忘れ
  • 費用の科目間違い:②広告費(×)⇒②広報費(○)
  • 政策加点の付与の希望あり・なしなどの<すべての事業者が対象の>回答項目を答えていない
  • 補助事業でおこなう事業名が、30文字オーバー

◆評価が下がる恐れがある間違えなど

  • 誤字&脱字
  • 同じ文章、表現が重複
  • 日本語が変
  • 一文がやたらと長い

これらは、読みにくい・わかりにくい文章となってしまい、本意が伝わらないだけでなく審査員の心証も悪くなってしまいます。

せっかくいい計画であっても、防げるはずの間違えのせいで落ちた…なんてことになった時は、悔やんでも悔やみきれません。「間違えは絶対起こるもの」と考え、申請書類全体の見直しは1回だけでなく、複数回チェックすることをオススメします。

 

小規模事業者持続化補助金は難化傾向

 

補助金は国で予算を組んで、その中で運用されています。ですので、予算の規模や、台風などの自然災害や新型コロナウイルス対応などの影響があるので、補助金の「原資」は毎回異なります。

採択者を決定する方式は、申請を審査して、評価点が高いものから順番に予算が終わるまで採択していく方式となっています。ですので、予算と申請数によって「採択率」は変動していきます。

中でも小規模事業者持続化補助金は採択率が大きく変動することで知られています。

小規模事業者持続化補助金の過去の採択率

小規模事業者持続化補助金の過去の採択率

中小企業庁HP、補助金ナビ(認定支援機関オフィスマツナガ行政書士事務所)HPより

令和元年、令和2年・第1回の採択率が少々異常値のようにも見えますが、採択率は減少傾向となっています。また、令和2年・コロナ特別型の小規模事業者持続化補助金も応募件数の増加も相まって採択率は右肩下がりになっています。

小規模事業者持続化補助金令和2年度コロナ特別型の採択率

小規模事業者持続化補助金令和2年度コロナ特別型の採択率

また、予算や申請数といった数字の都合以外でも、2019年10月23日の財務省の財政制度等審議会では、中小企業向け補助金について成果目標が不明確なものが一部あると指摘し、見直しの意向を表明しました。

つまりは財務省が補助金に対して評価を厳格化する意向を示したのです。小規模事業者持続化補助金とは別の「ものづくり補助金」について言及されましたが、それ以外の中小企業向け補助金に対しても、生産性向上などの成果目標を明確にすべきという旨が示されました。

これは、審査・採択基準が厳格化され、小規模事業者持続化補助金も難化していく可能性があります。

  • 原慎之介(Shinnosuke Hara)
    原慎之介(Shinnosuke Hara)

    中小企業診断士。計測機器製造会社の情報システム部門に勤務する一方で、図書館ビジネス相談会相談員、創業塾講師といった創業・経営者支援から、雑誌・Web記事への執筆などの活動に従事。 趣味は、スポーツ&一人呑み⇒1歳の娘を溺愛に路線変更。

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