美容サロンオーナーが知るべき社員の退職時に揉めないために知っておくべきことまとめ

美容サロンオーナーが知るべき社員の退職時に揉めないために知っておくべきことまとめ

 

離職率とは、起算日の在籍者数から、一定期間の離職者数の割合を出したものです。つまり、離職率が高いということは、それだけ会社や店舗を退職してしまう方が多いことを示します。

 

美容サロンオーナーが社員の退職時に揉めないために知っておくべき「美容師の離職率の現状」とは

 

離職率を見る時はこの「一定期間」が重要です。当然の短い期間より長い期間の方の数字が大きくなります。離職率を見る時には、必ずどの期間で計算したものかを見るようにしてください。

美容師の離職率は概ね一般の会社よりも高い傾向にあるようです。あるビューティーサイトの調査では、1年間で退職する離職率は50%、3年間だと80%という数字が出ています。

一つの美容室で勤める平均年数が約2年とか。この数値が正確かどうかは別として、美容サロンの事業主の方であれば、なんとなく体感的な離職率と近いのではないでしょうか。

公的データとしては、厚生労働省が発表している平成30年の「雇用動向調査結果の概況」によると、美容業が分類される「生活関連サービス業、娯楽業」の年間離職率は23.9%で、この数字は「宿泊業、飲食サービス業」に次いで高い数字になっています。

全職種の平均が14.6%なので、この結果から見ても、美容室の離職率は他の業種と比べて高いと推測され、それに合わせた対策が必要と言えるでしょう。

 

サロンオーナーが社員の退職時に揉めないために知っておくべき「美容師が退職する主な理由」とは

 

美容師の退職理由としては、給与水準、健康上の理由、人間関係、キャリアチェンジ、独立・開業など様々な理由が挙げられます。

ただ、認識しておきたいことは、必ずしも事業主に伝える退職理由と本音は一致しないということです。ある調査では、退職時に本当の退職理由を伝えたか、という質問にYESと答えた人は半分に満たなかった、という話もあります。

事業主に伝わる退職理由は新しいことに挑戦したいというキャリアチェンジ、または健康上の理由や家族育児介護など家庭の理由であることが多いようです。

しかし、本音ベースの統計では、「給与」「労働環境(長時間労働など)」「人間関係」の3つの理由が上位になります。この傾向は業種に関係なく表れており、美容サロンも例外ではないでしょう。

美容室の場合、特に修業期間が問題になります。一人前ではないので給与水準は一般に比べて低く、労働時間というよりは自身の腕を磨く時間を多く取られ、また店舗という閉鎖空間で濃密な人間関係の中で仕事をすることが多くなります。

つまり、修業期間は退職したくなる要素が揃っているのが現実と言えるでしょう。それが前章の離職率の高さに繋がっています。

事業主が離職を防ぎたいと思うのであれば、見せかけの退職理由を切り出される前に、この3つの理由を意識して、特に修業期間のスタッフへの気配りを行うことが重要となります。

 

美容サロンオーナーが社員の退職時に揉めないために知っておくべき「社員の離職コスト」とは

 

「退職したい人はすれば良い」と言わば開き直りたくなる気持ちも理解できます。しかし、冷静にコストを考えると、一人の社員の退職は決して安くありません。

まず、採用コストが挙げられます。媒体や紹介会社などを経由しているのであれば、その費用がかかります。良い人材を得ようとすればするほど、その費用は高くなります。

対応する時間という工数も馬鹿になりません。採用面接にかける時間はもちろん、その方が仕事で利益を出せるようになるためには、技術から接客態度からいろいろと教える時間があったはずです。

その時間を事業主や教育担当者の時給に直すと、そのコストの大きさがわかるでしょう。

社会保険料も含めた給与も、いわば社員が利益を生むための先行投資と言えます。その投資分を回収できるほど長く働いていたでしょうか。

一人の退職というのは、これらのコストの回収が強制的にストップされるということです。かつその新しい方が、再びかかったコストに見合う働きをする保証はありません。一人の社員の退職は、心情以前にコスト的な負担があるのです。

さらに言えば、一人の社員の退職は周りの社員の不安をあおり、次の退職を呼ぶリスクがあります。退職が連鎖すれば、そのコスト増から、店舗の存続の問題になりかねません。

 

美容サロンオーナーが社員の退職時に揉めないために知っておくべき「従業員満足度」とは

 

では、どうすれば社員が退職することを抑えることができるのでしょうか。ここで意識しておきたいのが従業員満足度です。Employee Satisfaction(ES)ということもあります。

従業員満足度とは、社員が会社に対してどれだけ満足をしているかを表す一つの指標です。指標の計算方法はいろいろとありますが、大事なのは何点を取るのではなく、従業員満足度を上げるために、何を意識するか、ということになります。

従業員満足度は顧客満足度に直結すると思って良いでしょう。従業員が納得感をもって活き活きと働いていれば、顧客もそれを感じ取って次も来たいと思うようになるでしょう。

逆にいつも退職したいと思っている職場の仕事は、責任感もなく、顧客に対する細かな気配りができなくなります。

満足度の指標の話になると、うちは給与が安いから、、、など給与金額の話が出てくることがあります。

しかし、ぜひ知っていただきたいのは、給与の多寡と満足度は必ずしも一致しない、ということです。高いに越したことはありませんが、実は賃金によるインセンティブは短期的なモチベーションにしかならず、むしろ次に受け取った金額が低かったときの満足度の低下の方が影響は大きいことが知られています。

従業員満足度を上げることが離職リスクを抑え、ひいては人件費の抑制につながります。事業主としてはぜひ優先順位を上げて考えていただきたいことになります。

 

美容サロンオーナーが社員の退職時に揉めないために知っておくべき「従業員満足度を上げる方法その①:理念、ビジョンの共有」とは

 

では、従業員満足度を上げるものが給与でないとしたら、何が影響しているのでしょうか。
それはこの「理念、ビジョンの共有」です。

ここで言う理念とは、店舗が何のために活動をするのか、その存在意義や使命を表現したものです。ビジョンとは理念をベースに事業を通じて将来的に成し遂げたい状態を指します。

美容業界に近く、業績を拡大させている理容大手のQBハウス社の経営理念を挙げてみましょう。

——————
我々は、お客様に「ありがとう」と言われる
均一で安心感のあるお手軽なサービスを提供し、
世界一多くのお客様から必要とされるヘアカットチェーン店を目指します。
——————-

特徴的なのは「均一」で「お手軽なサービス」を理念に入れていることです。つまり、QBハウス社はラグジュアリーで職人技が必要な美容サービスを提供していませんし、おそらく今後もしないでしょう。それは理念に反するからです。

結果として、個別で特別なサービスを提供したい人はこの会社には入りません。この理念に共感した人が入社します。この理念が特徴的であればあるほど、その共感度は高くなり、会社から離れにくくなります。

同じ理念を同じ熱量で実現しようとしている会社は無いからです。

ここでは「世界一多くのお客様から必要とされる」ことがビジョンとなっています。QBハウス社は今やグローバル企業となっています。ビジョンの実現に向かっているというところが、社員のモチベーションを上げることになります。

 

美容サロンオーナーが社員の退職時に揉めないために知っておくべき「従業員満足度を上げる方法その②:処遇の整備」とは

 

従業員満足度を上げるために、社員の処遇を決めることはとても重要です。処遇とは、その社員に対する給与などの待遇を指します。

前述の離職理由で給与に対する満足度が低い、という話がありました。これは給与が低いことよりも「給与に対する不信感、不安」が離職に結びつく理解した方が良いでしょう。

もし給与の高低だけで離職するか否かが決まるのであれば、日本で優秀な人材は特定の処遇の良い業種に偏るはずです。しかし、現実はそうなっていません。

例えば給与が低かったとしても、なぜ低いのか、そしてどうすれば高くなるのか、高くなったらどれくらいの待遇を得ることができるのか、というところに理解があれば、社員はそこに向かって努力をするだけ、ということになります。

逆にそれが無いと、いつまで経っても今の給与のままなのではないか、給与を上げる気など無いのではないかと勘繰りをしてしまい、モチベーションを落とすことになるのです。

賃金制度などを作れればベストですが、小規模店舗でそれを行うことも難しいでしょう。ただ、少なくとも評価の基準となるものはできるだけ社員に伝えてください。

それは同時に、評価しないことも伝えることになります。それはもちろん、前章で述べた理念やビジョンに沿って決められるはずです。QBハウス社であれば、時間をかけて美的に仕上げる技術よりも、短時間で正確に仕上げる技術の方が評価されるでしょう。

「評価すること、しないこと」を明確にして、それができるとどういう処遇を受けるのかを伝える。給与だけではなく、役職や権限も処遇に含むことになります。離職率を下げたければ、避けて通れないアクションなのです。

 

美容サロンオーナーが社員の退職時に揉めないために知っておくべき「従業員満足度を上げる方法その③:コミュニケーション」とは

 

本音の離職理由として必ず挙がるのが人間関係です。この人間関係という課題の厄介なところは、それを瞬時に直す特効薬が無いことです。

人間関係は、ある小さな会話や態度のずれから悪化します。最初は気づかない心の隙間に入り込み、気づけば目に見えないところで誰も修復できないほど悪化していた、という経験をしている方は少なくないのではないでしょうか。

ここでお話をしておきたいことは、コミュニケーションは「質より量である」ということです。

人に対する認知度、好感度はコミュニケーションの量に比例することを「ザイオンス効果」といいます。テレビCMで大量に流れるCMほど好感度が高くなる現象と言えばわかりやすいかもしれません。

もちろん、質が低いがゆえに、あまり効果の無いコミュニケーションもあるかもしれません。しかし、離職率を下げたい、会社に店舗に長くいてほしいと心から願う事業主であれば、その質はおのずと改善されてくるはずです。

最近の若い人は何を考えているかわからない、と嘆く事業主の方であれば、そこはわからないままで開き直っても良いかもしれません。

とにかくまずは一言声をかけるところから始めてください。悪化するときと同じようにすぐに目には見えないかもしれませんが、いずれ人間関係も改善されてくるはずです。

 

社員の退職が決まったら実施すべき手続きとは

 

残念ながら社員が退職をする、ということになれば、様々な手続きが必要になります。これを怠ると後々に面倒くさい遡及処理が発生しますので、確実に済ませていきましょう。

まず、退職願を提出させてください。そこには自己都合であれば、「一身上の都合」ということを明記させてください。書面が提出されたら、速やかに承認した旨を知らせます。できれば退職願をコピーして、代表者が押印をして返却すべきでしょう。

これは、後になって「どうして退職をしたのか」という点で揉めないようにするためです。社員が無理やり退職させられたという主張をして、言った言わないのトラブルが散見されます。

客観的にその方がどのような理由で退職が合意されたのか、証拠となる書面を取っておくことが、会社や店舗を守るために必要なのです。

退職が決まったら、その日まで行うべきことを整理します。貸与品があれば、何を返却させるのか明確にしてください。また、引継ぎ事項があれば、それも引継ぎスケジュールを決めて、誰に何を引き継がせるのかを話し合いのうえ決定します。

給与は日割で支給するのが一般的です。また、有給休暇が発生している場合、原則はそれを消化するスケジュールも決めることになります。原則的には有給休暇の取得を主張された場合、事業主は拒否できません。

 

社員の退職が決まったら実施すべき手続き「保険関連」

 

その社員が社会保険、雇用保険に加入していた場合は、資格喪失手続きも必要となります。

社会保険とは、ここでは健康保険および厚生年金保険を指します。店舗が法人であれば必ず加入をしているはずです。個人事業の場合は、任意加入ですので、社会保険に加入していなければ、手続きは不要です。

まず、健康保険については、健康保険証を退職日に返却してもらいます。被扶養者がいた場合、被扶養者分も合わせて返却してもらってください。

そのうえで、加入している健康保険組合に、受け取った健康保険証と一緒に健康保険の資格喪失届を提出します。協会けんぽの加入であれば、提出先は年金事務所になります。

健康保険証を紛失している場合は、被保険者証滅失再交付申請書を同時に提出します。なお、加入している健康保険組合によっては、手順が違うこともありますので、手続き前に組合側に確認することをお勧めします。

厚生年金保険は資格喪失届を年金事務所に提出します。なお、協会けんぽの場合は、資格喪失届は協会けんぽと厚生年金と合わせて1枚提出すればOKです。

続いて雇用保険も資格喪失をさせる必要があります。雇用保険資格喪失届をハローワークに提出します。また、退職者に離職票が必要かどうか確認をしてください。

離職票はハローワークで基本手当(いわゆる失業手当)を受け取る場合に必要な書類となります。離職票が必要であれば、会社側で作成を行い、速やかに交付してください。

 

社員の退職が決まったら実施すべき手続き「税金関連」

 

最後の給与が支給された後に、社員には源泉徴収票を交付します。源泉徴収票にはこれまでに支給した課税支給額、徴税額、社会保険料の総額などを記載します。

この源泉徴収票は次の会社・店舗で年末調整を行う際に必要になりますので、遅くとも年末調整を行う11月頃までに届けていただきたいです。

また、社員から住民税を控除している場合、住民税異動届の提出が必要となります。住民税の1年分を6月~翌年5月までの12分割で給与から控除をすることを特別徴収と言います。

退職するということは、もう住民税を給与から控除できなくなるわけなので、それを市区町村に伝えるのが、この住民税異動届です。

社員と残っている住民税をどうやって納付するか確認してください。選択肢は3つです。自身で納める(普通徴収)か、最後の給与でまとめて控除する(一括徴収)か、次の会社・店舗で給与からの控除を続ける(特別徴収継続)か。

そのうえで、選択された方法で給与から住民税の控除を行い、普通徴収、一括徴収であれば市区町村に住民税異動届を提出します。

特別徴収継続を選択する場合は、退職者本人に住民税異動届を交付し、その方が次の就職先にその届を渡します。次の就職先を通して市区町村に連絡されることになります。

  • 村田淳(Atsushi Murata)
    村田淳(Atsushi Murata)

    えん社会保険労務士法人代表。 社会保険労務であると同時に、100時間の傾聴訓練を積んだ産業カウンセラーでもある。 実務面と心理学の両面で中小企業や店舗をサポートしている。スーツや靴をオーダーメイドで作る喜びに最近目覚めてしまった。

PAGE TOP